抒情文芸 ~ 詩に出会う ~   


しばらく前から「抒情文芸」という詩の投稿誌に作品を投稿しています。
今回、残念ながら入選せず佳作でしたが、
今回投稿した作品は、私が最近出会った詩集の詩に感じて書いた作品です。
出会って心に深く感じて詩を書くことになったもとの作品はあとでご紹介するとして、
まずは私の作品からです。



小箱の中で


小箱を開ける
何かに会えるように
何かを見つけることができるように

ことばの粒たちが静かに置かれている
長い時間をかけて拾い集められた粒たちだ
粒たちは片隅でちいさくうなずいて
そっと目を伏せた
それからおそるおそる差し出したわたしの手の中に
うつむいたままいくつもいくつも落ちてきた

(見えることは罪ではなく)
(見えないことも罪ではなく)

粒たちはわたしの手の中で丁寧におじぎをすると
恥ずかしそうな笑みを送ってきた

誰かに見せるわけではなく
思い出の一枚にするでもなく
遠ざかってしまった時の奥に隠れるように置かれたまま
いつまでも風化しない出来事が
突然わたしの前に現われて
わたしは思わずたじろいだ

粒たちは動揺して早鐘のように鼓動を打った
鼓動は空気を振動させ
わたしの中でも早鐘を打ちはじめた
本当は開けてはいけなかったのかもしれなかったのに
むやみに立ち入り
見てはいけないものを見てしまったバツの悪さが
申し訳ない気持ちで流れこんできた

大事にしますとも
丁寧に扱いますとも言えないまま
わたしはそこに立ち尽くしていた



                        ********


そして、私が出会って感銘を受けた詩です。
震えるように繊細で美しい言葉が置かれていて、読みながら優しい気持になりました。
この詩は去年の12月23日に、
秩父のポエトリーカフェ武甲書店で行われた詩誌「スーハ!」の朗読会
「それぞれの、善き人への冬の歌」で朗読された佐藤恵さんの作品です。



乾電池


故郷から離れるというその朝
家族の寝息がこもる家を抜け出た
山裾の村から海辺の町へ
夜明け前のうすぐらい山道を抜け
車でさえ上る時には息切れする長い長い坂を
自転車で走り下りた
急な坂の大きなカーブをブレーキの音させて曲がる
雪さえ融けきらずに残る早春のつめたい風に打たれて
わたしのはなやほおは、どんなに赤かったことだろう
始発の電車に乗るその人を駅で待ち
偶然をよそおって顔をあわせた
かじかむ両手で火照るほおをかくして、おはよう、と声をかけたわたしに
まだ眠そうな顔でやってきたその人は、ぎょっとした様子で
ひふを切るようにつめたかった風よりも、もっともっとつめたい声で
なにしに来たんだよ、ときつく言った
わたしはあわてて「ああ、乾電池を買いに。じゃあ」と言ってすれちがった
四キロの道のりを、自転車に乗って風を受けつづけた目は
あつくうるんでとけて
いなか町で、駅前といっても店さえまばらで、こんな早朝から開いている店などないのに
とっさに出た言い訳が、乾電池だったなんて、なんだかおかしくて
始発のバスもまだ動き出さない駅前のバス停でひとり
わらいながらカタカタとふるえはじめたからだを押さえて泣いた

人はなぜくちづけなどするのだろう
缶ビールを片手に恋愛ドラマを観てはやれやれと
腕を引き抱きよせる場面などあらあらと
ひとりつぶやいてしまうちかごろのわたしが
くちづけもしなかったその人を思い出す
こごえて帰った日に
両手でつつんだお茶から吹きかかる熱い湯気で
はなのあたまをしめらせるように

その人がたった一度だけ
長い坂を自転車で上って
会いに来てくれたこと
おどろいた顔のわたしを見て
うれしそうに笑ってくれたこと


(佐藤恵詩集 『きおくだま』 より)(七月堂より出版)




作者プロフィール

佐藤 恵(さとう めぐみ)

1961年 秋田県象潟町生まれ。
詩誌「スーハ!」同人。
佐藤恵さんのブログ: 銀葉の舟
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by hannah5 | 2009-03-12 23:31 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(2)

Commented by 佐藤恵 at 2009-03-13 02:17 x
はんなさん、ありがとうございます。朗読会も遠くまで足をお運びくださって、ありがとうございました。
はんなさんの「小箱の中で」、わたしの幼い詩をやわらかなてのひらで包んでくれるようです。「生まれる」も、温かく心地よい詩ですね。
またおじゃまして読ませていただきます。またどこかでお目にかかれますように。
Commented by hannah5 at 2009-03-13 12:46
♯佐藤さん、コメントありがとうございます。
はい、またどこかでお会いしたいですね。
佐藤さんのブログも楽しみに読ませていただいております。
こちらまでご訪問ありがとうございました。

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