カレー屋   


何年前のだかわからないナツメロがかかっているカレー屋で
腹をすかせた男たちの中に坐る

女のいない男たちの空間は
カレーとスパゲティの大盛りを
ひたすら体の空洞に流し込む
大盛りのサラダにどぼどぼかけたドレッシングが
湖のように千切りの野菜を浸す

色気抜きの男たちの目のいろは
会話というより体の中から発する音に近く
たまに交わす相槌が途切れてつながっている

男たちは女の子といるとこういう店より
小奇麗でよそよそしいスパゲティの店に行くのだろう
神妙な顔でスパゲティをフォークにくるくる
だがそんな所では男の顔には会えやしない

ここでは男たちは目を輝かせて
ひたすら点のような会話を食べている

ものすごい勢いで食べていた隣の男が出て行った
体の中から立ちのぼっていた熱も
男とともに出て行った
坐っているだけで体の厚みが
空気の温度を上げてしまうような男だったけれど

男たちが二人また入ってきて坐った
二人一斉に横を向いて壁のメニューを見つめている
注文を終えると二人揃って前を向き
のっぺらぼうに広がっている空間を覗き込んだ

くぐもった声が最低必要限のふた言み言
一人がおもむろに煙草に火を点けた

厨房にいた男が客の一人に話しかけた
無表情だった男が微かに笑っている

「今度、行ってみようと思ってるんですけどね」
客は黙ってうなずく
「招ばれたもんで・・・」

無言の相槌が
旧知の友人のように溶け出している

ふと、あの人の姿が厨房の中に浮かんだ
孤独な面影のあの人が
男たちに囲まれて働いている

それはごく自然でさりげなく
あの人の空気そのものだった


(『ネットの中の詩人たち 5』 所収)
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by hannah5 | 2009-04-25 13:05 | 投稿・同人誌など

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