小箱の中で   


小箱を開ける
何かに会えるように
何かを見つけることができるように

ことばの粒たちが静かに置かれている
長い時間をかけて拾い集められた粒たちだ
粒たちは片隅でちいさくうなずいて
そっと目を伏せた
それからおそるおそる差し出したわたしの手の中に
うつむいたままいくつもいくつも落ちてきた

(見えることは罪ではなく)
(見えないことも罪ではなく)

粒たちはわたしの手の中で丁寧におじぎをすると
恥ずかしそうな笑みを送ってきた

誰かに見せるわけではなく
思い出の一枚にするでもなく
遠ざかってしまった時の奥に隠れるように置かれたまま
いつまでも風化しない出来事が
突然わたしの前に現われて
わたしは思わずたじろいだ

粒たちは動揺して早鐘のように鼓動を打った
鼓動は空気を振動させ
わたしの中でも早鐘を打ちはじめた
本当は開けてはいけなかったのかもしれなかったのに
むやみに立ち入り
見てはいけないものを見てしまったバツの悪さが
申し訳ない気持ちで流れこんできた

大事にしますとも
丁寧に扱いますとも言えないまま
わたしはそこに立ち尽くしていた


(抒情文芸130号 佳作)
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by hannah5 | 2009-04-25 13:29 | 投稿・同人誌など

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