かさぶた   


地表三十センチのところにできたかさぶたを
丁寧に
ていねいに撫でつける
荒っぽくいじると
かさぶたは剥けてしまうから

かさぶたを大事に取っておいて
その下の世界を
ぼんやり眺める

切り傷、
と決めつけてしまうには惜しいような
日常が霧のように
しゅん、と

なぜだか最近
子どもの頃にひどく叱られたことと
古い校舎の壁に当たっていた静かな夕日が
記憶の底から交互に浮かんできて

かさぶたを
しきりといじくってみたりする

うまく処理できなかった怒りが
ふつふつとこみあげてきて
本当は優しくしたいのに
意地悪なことばかり言ってしまう

必死に抵抗する人は
じりじりと後ずさり
隅っこに追いつめられて

(かさぶたを剥かないで)

力なく見あげた眼の底に
やつれたやり切れなさが沈んでいる

三十センチの間に漂っている
薄墨色の思いやりが
言葉になりきれずに
たたずんだまま


(旋律20号所収)
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by hannah5 | 2009-04-25 13:42 | 投稿・同人誌など

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