体内リズム   


眠りかけていた時間が急に目を覚まし
次第に目を見開き凝視している
細胞が総毛だった
背中と脇の下がじりじりと熱くなってくる
胸の奥がりんりんと鳴っている

(この音をどこで聴いたか)

                       それは
空気が凍りついたまま
冬が街の上に羽を広げていたある朝
一瞬、春の匂いが
鼻先をかすめて消えてゆくときに
聴いたような気がする

                      あるいは
あの人が我を忘れて
仕事に没頭していた横顔は美しく
あの時たしかにひときわ大きく
りんりん、
と鳴ったのを聴いた

                    あるいはまた
緑の中で立ちのぼり
緑の風を呼び起こし
気まぐれに木膚を撫でては立ち去る風の中に
両腕に抱えきれないほどの優しさがあって
いのちが蒼々と染められていった日
聴いていたのだと思う

                       しかし
それらがどれほど胸を突き
どれほど胸倉を抉ろうとも
それらを一瞬のうちに消してしまう音がある
からだのもっとも深いところに記憶されている
幼児体験より古く
わたしが母親の体内の奥深くで仕組まれたときに
密かに埋めこまれた音
鼓膜では掬えない音だ

わたしが生まれる前から聴いていた音
言葉という


(旋律23号)
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by hannah5 | 2009-07-14 14:00 | 投稿・同人誌など

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