La Voix des poètes (詩人の聲)第378回 ~長谷川忍さんの朗読会   


8月19日(水)午後7時より、Star Poets Gallery で長谷川忍さんの朗読会がありました。長谷川さんはすでにこれまでご自身の作品の朗読を何回かしてこられ、今回は第一詩集の 『ウィスキー綺譚』 を中心に、第二詩集 『遊牧亭』 からも数篇、ユーモアを交えながらゆったりと朗読されました。お酒をこよなく愛される長谷川さんの作品にはほのぼのとした感じのものが多く、朗読の最中にも客席から思わず笑いがこぼれることが何回かありました。長谷川さんから許可をいただきましたので、朗読された作品の中から2篇ご紹介させていただきます。


沢庵


春だというのに
凍えるような宵だった。
お店の戸を開けたとたん
湯気で
眼鏡が、曇った。

けいこさん差し入れの沢庵で
泡盛のお湯割りを頂いた。
お手製の沢庵は、よい塩梅であり
下心ありそうなしょっぱさでもあって

鳴樹さん
けいこさん
マスターに
おーちゃん

みんな、沢庵みたいだ。
すっかり社会に漬かっちまっていて
ぬかるんでいて
でも変なところが純情で
ほどよく助平で
滑稽で。

谷中、初音小路。
大人の横丁だと
ずっと思ってきたのだ。
今夜の沢庵は
私がいちばん年長なんだってさ。

ようやっと身体が温まってきた頃
お店の古い柱時計が
ほっこり、明日を告げた。


          (長谷川忍詩集 『遊牧亭』 所収)



郷愁


月に向かって
石を放り投げたのは
一体どちらのせいだったろう

とても濃過ぎる記憶が
零れている
あなたは
たぶん きっと誰よりも
あなたでいたい

からだを共有することだけが
労りであるとするのなら
僕は
もう何度この恥ずかしい痒みを
繰り返してきた

でも
それはどこか懐かしさにも
似てはいないか
たとえばこんな満月の夜や
滑稽な互いの意地や
僕は掌の石を
じっと凝視めたまま

今夜
あなたは月に還りたい

けれどあなたは
どうしようもなく
女と いう奴で


           (長谷川忍詩集 『ウィスキー綺譚』 所収)








長谷川 忍(はせがわ しのぶ)

1960年、神奈川県川崎市に生まれる。
「詩と思想」編集スタッフ。
「焔」(福田正夫詩の会発行)同人。
詩集は 『ウィスキー綺譚』、『遊牧亭』。
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by hannah5 | 2009-08-19 23:29 | 詩のイベント | Comments(0)

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