人気ブログランキング | 話題のタグを見る

私の好きな詩・言葉(16) 「落葉松」   

20代前半、苦しい恋愛のさなかに信濃追分の落葉松林を知り、幾度か訪れました。さびしい落葉松林を歩いて北原白秋を知ったのもこの頃です。その頃書いた詩には、白秋や立原道造などから影響を受けたものが多かったと思います。



からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見き。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。



からまつの林を出でて、
からまつの林に入りぬ。
からまつの林に入りて、
また細く道はつづけり。



からまつの林の奥も、
わが通る道はありけり。
霧雨のかかる道なり。
山風のかよふ道なり。



からまつの林の道は、
われのみか、ひともかよひぬ。
ほそぼそと通ふ道なり。
さびさびといそぐ道なり。



からまつの林を過ぎて、
ゆゑしらず歩みひそめつ。
からまつはさびしかりけり、
からまつとささやきにけり。



からまつの林を出でて、
浅間嶺(あさまね)にけぶり立つ見つ。
浅間嶺にけぶり立つ見つ。
からまつのまたそのうへに。



からまつの林の雨は、
さびしけどいよよしづけし。
かんこ鳥鳴けるのみなる。
からまつの濡るるのみなる。



世の中よ、あはれなりけり。
常なけどうれしかりけり。
山川に山がはの音、
からまつにからまつのかぜ。


(北原白秋、『北原白秋集』「落葉松」より)

by hannah5 | 2004-11-27 22:59 | 私の好きな詩・言葉

<< 情報多種多様 さよならの向こうに >>