長い詩   


 とてつもなく長い詩を読んでいる。始まりは顕微鏡で見なければわからないほど小さく、どの季節に属していたのかも定かでない。偶然に偶然が重なってその詩を読み始めたのだけれど、初めの頃は燃えつきの悪い炭みたいに発火するのに時間がかかった。なぜ時間がかかったかといえば、長い詩なんて退屈極まりないというのが今まで読んだ大方の長い詩の印象だったし、詩人の無愛想な面持ちや複雑に絡み合った生活を見るたびに、詩を読むことが遠のきそうなくらい萎えてしまったからだ。優しい始まりではなかった。
 雨が降っている日は、長い詩は重くなってページをめくることさえできなかった。お天気のいい日はかえって太陽がまぶしすぎたし、ページをめくると発火しそうだったから、やっぱり長い詩は読めなかった。それでも長い詩のことが気になって、夜遅く家の中の音がすべて途絶え、わたしの影がひとつだけ灯りの下に残される頃、わたしは長い詩を取り出しては眺め、最初のページをめくってみたりした。
 ある日、詩人のペン先から今まで聴いたことのない不思議な音がこぼれ落ちた。それは水晶のように透明な音で、ざわざわしていたまわりがしんと静かになった。わたしの中に透き通った水が流れ込み、初めて長い詩を読んでみようという気になった。
 詩人は相変わらず無愛想だったし、密生した生活は透度が低くて見通せなかったし、長い詩を読んでいくためには相当の体力と気力と覚悟(のようなもの)がいるだろうと思った。けれど、あの時聴いた水晶のように透き通った音が、いつまでも耳の中から消えなかった。
 あれから長い詩をゆっくりと読んでいる。たぶん、これからもずっと読んでいるだろうという気がしている。


(詩と思想11月号佳作)
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by hannah5 | 2009-11-10 16:31 | 投稿・同人誌など

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