私の好きな詩・言葉(138) 「いまだ咲かない零度の種子」 (松尾 真由美)   


いまだ咲かない零度の種子


稚拙な覆いがきえる
追放の春
もうひとつの
痛点へと
地下に蠢く
純化の根を指し
にぶい彩度の
影が膨らむ

あるいは可動性の溝をひっかき緩やかな円環の変質をくだっていく

うすく
枠組みをくずし
つよい風の音にそって
彼方のあざやかな輝度を想う
色褪せていくこの磁場の
親密な腐蝕をたぐり
ながれる時間の
無為の束縛に慄く
僅かな差異がもたらす
不完全な擦過の反映
いつも折れまがった侵食の形で
介入する寒気に応じ
いかがわしい露呈に赴き
そうして砦の細部から武装を始め
私は蛹の身振りでゆらめく
熱い硬直がひろがる胸元をあなたにさらし
半眼にちぎれた向こう岸には
たしかにささやかな谺を充たすやさしい内部があって
裏付けのない杭を穿ちあなたの晴れやかな鉱脈へと歩んでいく
しろい画布のような鉱床に横たわり
あなたの触覚の損傷にもぐりこみ
あわい余剰のなかでいっそう淫らに手足を伸ばす
剥脱された夢想を取りもどすため私たちは柔らかく重なる
重なり後退し血腥い訂正をくりかえし
なお恋慕をつづける闇の未知なる発情を
ひたすらあなたに渡していく
遠い魅惑の密度をさぐり
遥かな稜線にためらうほど
おろかしく
届かぬところまで
裸体のまま漂う

せめて
あたたかい檻を作り
あなたを閉じこめ
私を眺める
いや
私を閉じこめ
あなたの瞳に
抗うのだ

果てない誘惑だけに感応し
至近の距離を計れない
その曖昧な陥没
あらわな落度
きっと
狭窄する往還は
これらの澱みを湛えた川となり
私たちをめぐっている
幾多の小さな亡骸が浮かぶ
かなしい
跛行に
すでに存在した
剥離の渦をただし
いつまでも慣れない
屈折の素描に眩む

だからこそ奔放に抱きあい出口のない未完の消滅をもとめる

辺境のあらあらしい焦慮において
はかない充溢の気配を孕む
あなたと私は誰と誰?
交互に渇きを癒したあと
たがいの脆さを貫き
やがてつまずく
極を引摺り
さらに仮象の
淵に
溺れる

(松尾真由美詩集 『密約―オブリガート』 より)







ひと言

第52回H氏賞を受賞した詩集。
男女の官能の物語が世界の深遠の彼方から響いてくる。
最近、私が注目している詩人、この詩集を何度も読み返しています。
松尾真由美さんの言葉を私の説明で消してしまいたくないので、今回はこれだけです。

尚、松尾真由美さんのプロフィールは今のところ松尾さんの住所とブログくらいしかわかりませんが、『密約-オブリガード』でH氏賞を、『不完全協和音』で萩原朔太郎賞を受賞されています。

松尾真由美(まつおまゆみ)さんのブログ: 松尾真由美 詩のことばと言(コト)の葉と
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by hannah5 | 2009-12-22 20:40 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)

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