噛みしめる季節   


この夏の
不穏な何物かに脅かされて
細々とした気分で暮らしていたから
風に当たってこようと
山里のぬるい空気の中を歩きつづける

ぷっくりとふくらみ始めた稲穂の
健康な重さを計り
子どもの頃 遊びに行った田舎の
蒼々とした稲田の畦道を
歩きまわった懐かしさがちくりと刺さった

白土の歩道が直線に続き
左に折れ斜めにカーブし
道に沿って流れる小川は
もしかしたら叔父の家の裏手から
ずっと流れてきたのかもしれない

その先に現れた土壁の土蔵が
しまいこんでいた少女の気分を
忠実になぞって
風の中に消えていった

少しずつ勾配を増していく山道を
見上げる足元が蒸れて
汗ばんだ風が立ち止まる

漬物屋の軒先に
苔みどりいろの水が流れ
小さな籠に並べられた漬物の
おふくろの味を土産に買う

時間が間延びしている

その瞬間
歩き廻ることが噛みしめるように面白かったあの頃が
ふいに表れ
わたしは正常な季節の中に立っていた

※京都大原にて


(旋律24号掲載)
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by hannah5 | 2009-12-28 23:01 | 投稿・同人誌など

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