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落とし物   


小さな窓をあけると
突然 目の前に開けて見えたのは
さまざまに揺れ動く光と色のプリズム
記憶の底にかすかに残るなつかしい風景
窓をあけてくれたのは優しい詩人
あるいは哀しい詩人だったかもしれない

私は窓の前でなんだかもったいないような気持ちで
詩人の顔を盗み見た
かすかな微笑みをたたえながら詩人は静かに手を上げた
詩人の指差す方向を見つめていると
いつしか見たこともない街を歩いている
ぽつりぽつりと雨が降り出した
いつのまにか一緒に歩いていた詩人が傘をさしかけてくれた

歌が聞こえてきた
どこからともなく誰に聞かせるでもなく
低い声でつぶやくように歌が聞こえてくる
なんだか記憶の底がくすぐられるようななつかしいメロディだ
どこで聞いたんだろう
思い出そうとしてみるけれど どうしても思い出せない
詩人はにっこり笑った

それで私は思い出した
ああ これは心が息をし始めた時に覚えた歌だ
言葉にすることさえできなかったあの頃
むしょうに歌が歌いたかった
歌いたくて歌いたくて 今にも泣きそうになりながら
ハモってみたメロディだった

それから私達はいくつものプリズムを通り
いくつもの季節を過ごし
詩人がとうの昔に忘れてしまった落とし物を拾ったりして歩いた
私はなんだかすっかり嬉しくなってわざと落とし物をした
いつかあの詩人が拾ってくれるかもしれないと
淡い期待をしている

by hannah5 | 2004-12-09 14:41 | 作品(2004-2008)

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