親密なしかし捕らえることのできないものへ   


歩いて行けない時間の向こうに
永遠に捕縛できない今日がある

ひたひたと足音を忍ばせ
影のように寄り添い歩く
絡まりもつれてくねる躰を這わせ
至近距離のもっとも高揚した瞬間に
つ、と立ち止まり
恍惚に身を沈める
しかしすぐに這い上がり下降線を下り
薄目をあけて冷めた空気を呑み込む
ふと意識は遠のいていく

くぐもった声で哀願すれば
けだるい放物線が長い尾を引いて消えてゆく
上目遣いに曲線をなぞり耳元で舌打ちすると
一本の楔が熱い血の中に打ち込まれる
そうして消えることのできない刻印を夜の中へ押していった

             *

いつのまにか影は夜の闇に溶け
くねりながら這っていた躰は見えなくなっていた

声がかすかに聞こえたような気がした

耳の奥に残っている聞き慣れた声は
あちらを向いてどこかよそよそしい
夢の中へ逃げていかないように
捕まえようと手を伸ばす
その途端にするりと身を交わし
一瞬のうちに闇の中へ消えてしまった

重ね合わせた時間の中に
青や黄やオレンジの光が交互に現れる
その光の一つ一つに思いのすべてが吸い込まれていく
次の瞬間にはしかし
思いの痕跡を見つけることはできない

時間の向こう側で
青や黄やオレンジの光が明滅している
手を伸ばすと光は消えた
手を引っ込めると
また明滅を始めた


(詩と思想7月号掲載)
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by hannah5 | 2010-07-14 13:34 | 投稿・同人誌など

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