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私の好きな詩・言葉(18) 「十四月七日」   

平田俊子さんの『十四月七日』を読んだ時、ちょっとうなりました。平凡であることに憧れる一方で平凡に終わることをどこかで恐れている。詩人の新井豊美さんは「詩を書く人は平凡ということをある意味で羨望しながら、そうなることを恐れているところがあると思うんですが、平田さんはそれをうまく逆手にとって「平凡」という言葉が攻撃的になっているところがおもしろい」と評しています。私自身のことを言われているようで、見透かされているなと思いました。見事な詩です。


十四月七日

わたしは平凡になりました
平凡な女になりました
いいえもともと平凡ですが
平凡ゆえに
平凡であることを認めたくなく
ほかの人と多少違いはしないかと
平凡にうぬぼれておりました
けれどもう逃げも隠れもいたしません
わたしは平凡
きょうから平凡
いいえ生まれつき平凡でした

平凡は楽しい
平凡は明るい
お正月には神社にいって
神様に願い事をすればよい
桜が咲けば人込みに出掛け
きれいきれいを連発する
夏になったら海にいってはしゃぎ
クリスマスにはわけもわからず
グラスをかちゃかちゃ鳴らすのだ

平凡な男と平凡な女の
平凡なセックス
平凡な男は平凡な紐で
平凡な女のからだを縛り
平凡なアイスクリームを
平凡な女の
平凡な乳首にぬって喜ぶ
平凡な男が平凡な女の
平凡な兄か父だとしても
それはそれで平凡
平凡すぎるぐらい平凡な平凡

平凡なことに
平凡な人は平凡な病気にかかる
平凡な人にはそれが残念
何万人に一人の難しい病気に
平凡な人はあこがれる
平凡な病気に効く薬はたくさんあるから
平凡な人は平凡に回復し
平凡な社会に平凡に戻る

好きな人には優しくて
嫌いな人には意地悪をする
平凡な人の単純明快
悲劇を見て泣き
喜劇を見て笑う
平凡な人のあたたかさ
起きて働き 食べて寝る
平凡な一日
平凡な生涯
わたしはどこまで平凡になれるか


                (平田俊子詩集『詩七日』より、 『現代詩手帖』11月号掲載)





『現代詩手帖』11月号 「特集「女性詩」新地点」

「平田さんの外部の取り入れ方のうまさに、いつも感心させられます。私は『十四月七日』を挙げました。これは「平凡」という言葉によって詩を作っているわけですね。詩を書く人は平凡ということをある意味で羨望しながら、そうなることを恐れているところがあると思うんですが、平田さんはそれをうまく逆手にとって「平凡」という言葉が攻撃的になっているところがおもしろい。最後は平凡であることの難しさ、あるいは尊さみたいなものに辿り着く。平凡、平凡といっても自分は平凡にもなれていなんじゃないか、というある種反省的なところで終わります。人を食ったような感じがおもしろいのですが、これを読んで平田さんという人は実はとても生真面目で心やさしい人なんだなと。全体にこの詩集は、そういう平田さんの素顔が出ていますね。」(平田俊子詩集『詩七日』 新井豊美氏評より一部抜粋)

by hannah5 | 2004-12-12 19:54 | 私の好きな詩・言葉

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