私の好きな詩・言葉(144) 「夜の背」 (中村 梨々)   


夜の背

からだからあらゆる球を取り出して洗う
どこからも月はのぼらない
人は人でも自然でもなくなり
吠えることもできず
自分宛の絵文字を送り続けて朝になる
あなたと違う私
 にある球はやわらかく
紅金魚の泳ぐ池には優雅な尾ひれの数の死が
待ち構えている
拾うことも捨てることもできない
池が迫ってくる
あなたの背にまるく私を写し取ることができたらいいのに
ぬるくなったお湯に全身をひたす
金魚がひらひらと泳ぎはじめ
私は雨を含んだ肌になりそこねた
腕を抜き足を時間を逆撫でするように
紅い腹をさすり
順を追って説明しても届かない
改、の字を湯に書く

(現代詩手帖2008年9月入選、杉本真維子選)






ひと言

いつの頃からか、現代詩手帖に入選して登場する中村梨々(りり)さんの作品に注目するようになった。やわらかくて繊細でやさしい言葉、深みと奥行きがあって、肩肘を張っていないのに言葉に力がある。ネットや詩誌など、さまざまな所で入選されてきた。作品が掲載されるたびにどきどきしながら読む。こんなふうにやわらかく感性の奥へずいっと入ってくる言葉が好きだ。梨々さんの詩にはどこか体の奥で感じる細密な揺れや震えがあって、それらが微妙な陰影を成して発せられる。殊更女性の詩として区別するのは好きではないが、どうみても理論や理屈をフルパワーさせた男性詩人の詩とは違う。どちらが優れていると言っているのではない。女性特有の感覚や感性が私には感覚的に納得できるのである。

時々、詩作に迷いが生じたりめげてしまったりされるらしい。でもそれも女性だからと思っている。意志の力や努力で書かないでください。感じたままをやわらかく、そのまま書いていってください、梨々さん。

中村梨々さんの作品はこんな所(ぽえ。をごらんください)で見られます。
中村梨々さんのブログ: nasi-no-hibi 
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by hannah5 | 2010-10-29 17:06 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)

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