かさぶた   


淀んだ甘い痛みがあって
爪の先でチ、とほじくってみる
まだ乾ききらないかさぶたのように
触れただけで血が出そうな鋭利な痛みを感じる
チチ、
ほじくっていけば
悔恨と感傷が膨れあがってかさぶたを押し上げてしまいそうで
それ以上ほじくるのをやめた

父さんに関するかぎり
悔恨と感傷に浸ることは正しくなかった
それらに浸ってみても
しぃんと染み込ませてはくれなかったからだ
乾いた無感覚をかぶって一晩寝てしまえば
かさぶたの下をとうとうと流れる川を見つめて物思いにふけることもなければ
やわらかなぬかるみに足を取られてずるずると沈むこともない
それよりもっと実になる話をしよう
明日はどこまで感傷を乾かすことができるかとか
どこまで滲み出る血を吸い取ってかさぶたを固くすることができるかとか
かさぶたが乾いてぽろりとはがれるのをどこまで見届けることができるかとか

今こうしてあるのは
かさぶたとその下の薄暗い川を見ないでいられるからだ

それでもたまには
-誰からも振り向かれなくなった頃
突然胸倉をつかまれたように
チチチ、
とほじくり返してみることがある
ほとんど馴染みのない夜の深みに丸ごと飛び込んで
何も聞かずにやり過ごしてきた質問をぶつけてみる

ねぇ、わたしたちは同士だったはずだよね
なんで先に行っちゃったんだよ?

(狼+18号所収)
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by hannah5 | 2010-12-11 13:52 | 投稿・同人誌など

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