灰いろの眼   


滑っていく母の意識を撫でつける
今日はお風呂の日
忘れていたクリームを
顔じゅうに薄く引き伸ばして
そこはかとなくここに戻ってくる
底なし沼のように沈んでいた目の中に
やっと灯りがともる

それからわたしは
遊び疲れたイソギンチャクみたいに
ベッドの横のわずかな隙間に
どぼん、
と飛びこんで
しばらく漂っている

ほんとうは
ミルクいろした海の中にいるはずだったのに
今日の母は
洗いざらしの漂白したシーツを広げたまま
どこまでも沈んでいく

わたしは誰ですか

覗きこんだ海の中で
薄い灰いろの眼を見開いたまま
わたしの質問も沈んでいく

息継ぎを少ししてから
古い童謡をいくつか
油の切れた蓄音機みたいに歌う
小さなじゃんけんぽん!と
あいこでしょ!をして

わたしたちはゼリーのようにくっついたまま
ふつふつと
半透明の海の中

(旋律26号所収)
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by hannah5 | 2010-12-28 12:28 | 投稿・同人誌など

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