鼓膜をほぐして   


         もしかしたら
         言いたいことを忘れてしまった
         しばらく前から
         本当はたくさんあった
         言おうと思っていたこと
         言うはずだったこと

私の中で音がしていた
私が生成されたばかりの頃
細胞分裂が始まったばかりの核に近い球体の中で
初めて鳴った音
体の奥のどこか仄暗い所で鳴り続けていた
それからずっと

耳を澄ますことをどこかで見失った
雑踏の中を歩き回っているうちに
足元から立ち上ってくる雑音に気を取られ
喧騒の中から湧いてくる騒音に呑み込まれ
鼓膜がすっかり硬くなってしまった

右を聴くことは正しくなかった
左を聴くことも正しくなかった
もとより初めから

気を取られているうちに仮面が付いていた
その仮面を剥いで別の仮面を着けてみる
居心地がいいかどうかよくわからない
なんとなく仮面の顔になった気がする
不器用な手つきで仮面を剥がす
また別の仮面を着けてみる
どれかが私のオリジナル
のはず

鼓膜をほぐしてじんわりと
今も鳴っているはずの音に焦点を合わせて
聴く

(旋律26号所収)
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by hannah5 | 2011-01-16 01:53 | 投稿・同人誌など

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