かげろう   


ため息をひとつ
目の前に小さく落としてその先をじっと見つめる
ため息はいくつもの気泡となって
やがて薄くなり始めた表面がくるりくるりと向きを変え
ついにはぽつぽつと穴があいて風通しがよくなる頃
ひっそりと消え入るように溶けていく

風をまたいで歩いていた足が
速度をゆるめ始める
何かを思い出したようにふと立ち止まる
うしろを振り返り
眉間に小さな皺をいくつも寄せ
それから前を向いてふたたび歩き始める
通り過ぎていく風景の中に皺をひとつずつ落としていく
最後の皺を落とすころには
うしろにあったものは霧のように薄くまばらになっていて
やがてそれらもぼんやりと消えていく

始まりをいくら捜しても見つけることができない
二、三日前通った時にはたしかにあったはずなのに
どこかに紛れてしまったか
ぼんやりと消えてしまったか

解決策は霧のようにあいまいなまま
ゆっくりと先へ行く

小さいころからいつも触ってきた街の匂いと音
季節の変わり目ごとに拾い集めた約束のことば
地中深くに突き立てた流れ星
それぞれがかげろうのようにぼんやりと立ち上がり
時間の裏側へ落ちていく

歩いた後から足跡が消える
積み上げた思い出がひとつずつ砕けていく

扉を小さく開いてきれいな色とりどりの石を
わたしの手の中に置いてくれた
わたしは手を握りしめて石の感触を確かめたかった

握りしめた手の中で石が消えていた

(新現代詩13号掲載)
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by hannah5 | 2011-07-04 15:22 | 投稿・同人誌など

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