日本の詩を読む V   


昨夜は「日本の詩を読む」の講義でした。取り上げたのは堀川正美の『太平洋』でした。

一人の詩人が一人の詩人に多大な影響を与え、そこから多くの若い詩人たちに限りない影響を与える。吉増剛造さんの若き日の愛読書が堀川正美の『太平洋』だったそうですが、どんな思いで吉増さんはこの詩集を読み続けていらしたのか。詩から立ち上る魂の息みたいなものが一人の若き詩人の心の深みに下りて根を張る、そして多くの若者たちの作品に変革と新しい息を吹き込む-すごいことだと思います。

何篇か読んだ中で、私の中で特に響いた作品2篇、「声」と「新鮮で苦しみ多い日々」をここに置いておきます。





たれさがった空のへりがゆれてはねあがる
そして空はときに
空であることをたしかめるために
そのへりをひきあげている
そしてまたおりてきて
さらにとおくのぼっている

その熱のなかでつくられた
熱よりも熱いものが
たちあがって
しだいにおしはなれてゆく天と地のあいだを
たえずすれすれにあるいている そして
どんな熱にも死ぬことのない鳥らが
まわりをはばたいて
ぐるぐるまわっている

けものたちを舌でなめしたそのひとが
われわれの
父や母だったとはかぎらない
そして街の壁が
そとへむかって割れて
ばらばらとくずれおちるとき
その声が
おまえらから
わたしにむかって
しずかにひろがってくる





新鮮で苦しみ多い日々


時代は感受性に運命をもたらす。
むきだしの純粋さがふたつに裂けてゆくとき
腕のながさよりもとおくから運命は
芯を一撃して決意をうながす。けれども
自分をつかいはたせるとき何がのこるだろう?

恐怖と愛はひとつのもの
だれがまいにちまいにちそれにむきあえるだろう。
精神と情事ははなればなれになる。
タブロオのなかに青空はひろがり
ガス・レンジにおかれた小鍋はぬれてつめたい。

時の締切まぎわでさえ
自分にであえるのはしあわせなやつだ
さけべ。沈黙せよ。幽霊、おれの幽霊
してきたことの総和がおそいかかるとき
おまえもすこしぐらいは出血するか?

ちからをふるいおこしてエゴをささえ
おとろえてゆくことにあらがい
生きものの感受性をふかめてゆき
ぬれしぶとく残酷と悲哀をみたすしかない。
だがどんな海へむかっているのか。

きりくちはかがやく、猥褻という言葉のすべすべの斜面で。
円熟する、自分で歳月をガラスのようにくだいて
わずかずつ円熟のへりを噛み切ってゆく。
死と冒険がまじりあって噴きこぼれるとき
かたくなな出発と帰還のちいさな天秤はしずまる。

(堀川正美詩集『太平洋』より)
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by hannah5 | 2011-10-22 15:04 | 詩のイベント | Comments(0)

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