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私の好きな詩・言葉(23) 「ある世界」   

谷川俊太郎の詩には言葉にとらわれない自由な心がある。心が言葉の中を自由に泳いで、言葉のもつ魅力を充分に引き出してくれる。こんな新鮮な詩があったのかと唸って考えていると、案外、普段から使われている言葉だったりする。言葉に気取りがないから、詩を読んでいてもつい詩であることを忘れてしまう。そして、いつしか、詩の向こうに広がる谷川俊太郎の世界で、谷川俊太郎と一緒に歩いたり感動したり喜んだりしている。

「ある世界」は『ゆう/夕』に収められている詩で、吉村和敏の見事な夕焼の写真に添えられた詩である。写真と詩を見ながら、あんなにも美しい夕焼けを見たら言葉はきっと静かにじっとしていないに違いないと思ったほどだ。そう考えていたら、私にも「夕焼け雲」ができた。(『ゆう/夕』 文と詩/谷川俊太郎、写真/吉村和敏)(吉村和敏氏のホームページと『ゆう/夕』の紹介はこちら


ある世界


昼が夜に昇華するとき
夕焼雲のむこうに
私はひとつの世界を見る

地球は平らな円板だと考えた
はるかなむかしに
生まれたかったと思う
夕焼雲のかなたのあの赤さは
大地の果ての火の流れじゃと教えられ
その火にひそかなあこがれを
(或いはわずかのおそれをも)
もちたかったと思うのだ

夜のおとずれを待ちながら
夕焼雲のかなたに
私はひとつの世界を見る

夕焼け雲





夕方


誰もいない隣の部屋で
誰かが呼んでいるまるで僕のように

僕は急に扉を開ける
こっちは暗いのに
そこには明るく陽が射していて
たった今誰かが立ち去ったところらしく
影がちらりと目をかすめる
だが僕が追うともう誰もいず
あたり前な夕方になる

花瓶には埃がつもっている
窓を開けると空が明るくそこでも・・・・・
誰かが呼んでいる僕のように

by hannah5 | 2005-01-09 12:04 | 私の好きな詩・言葉

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