ひとしずく   


本当は
確かに同じ方向を見ていた瞬間があって

かすかな雨の降る音を聴いたり
― うすくれないの小さなふくらみ
傘もささずに夜の街を歩き続けたり
― 長靴の底で踏む白いぬくもり

形にならない名前がいくつか舗道に転がっていて
落ちてくる雨の下で
そうね、とか
いいよね、とか言って
消えずにいることが相槌のようで

始まりも終わりもなく
どこまでもずっと歩いて行けそうで
笑うことを忘れていた手のひらが
ぽっとあたたかくなって
初めてのように息をついだ

何かが必要で
何も必要ではなく
― 雨がつま先を絡めて踊っている

いつだったか
ガラスのペーパーウェイトをもらったことがあって
透明な重みがぽってりとしていて
底に綺麗な切れ長の目が沈んでいた
― 淡い甘味がかすれて浮いてくる


上手に重ねられなかった日日の間に
雨の滴がころころと
落ちていく


(旋律28号)
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by hannah5 | 2012-01-04 17:29 | 投稿・同人誌など

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