ひとしずく
2012年 01月 04日
本当は
確かに同じ方向を見ていた瞬間があって
かすかな雨の降る音を聴いたり
― うすくれないの小さなふくらみ
傘もささずに夜の街を歩き続けたり
― 長靴の底で踏む白いぬくもり
形にならない名前がいくつか舗道に転がっていて
落ちてくる雨の下で
そうね、とか
いいよね、とか言って
消えずにいることが相槌のようで
始まりも終わりもなく
どこまでもずっと歩いて行けそうで
笑うことを忘れていた手のひらが
ぽっとあたたかくなって
初めてのように息をついだ
何かが必要で
何も必要ではなく
― 雨がつま先を絡めて踊っている
いつだったか
ガラスのペーパーウェイトをもらったことがあって
透明な重みがぽってりとしていて
底に綺麗な切れ長の目が沈んでいた
― 淡い甘味がかすれて浮いてくる
上手に重ねられなかった日日の間に
雨の滴がころころと
落ちていく
(旋律28号)
by hannah5 | 2012-01-04 17:29 | 投稿・同人誌など