私の好きな詩・言葉(150) 「この子の空」(島田 奈都子)   



この子の空


消しゴムは
わたしの価値観
この子の空はいつも
画用紙をとうにはみ出している
わたしは
この子の蒼い空を
広すぎるからと消す

そこには
ほんとうの
この子の空があふれているのに

消した空が
消しゴムのかすと混ざり
床にちらばっている

この子はいつも
とおい目をして
空をみわたしていた
こどもは小さいけれど
いちばん空に
ちかい人

わたしに空を消されて
なみだまで
ながしている

この子の空は
広かったんだ
ほんとうに
ほんとうに
無限なんだ

(島田奈都子詩集『神さまからの電報』








ひと言


島田奈都子さんの第一詩集。恋愛、結婚、子育て、慣れない土地での暮らし、次第に失っていった心の均衡、そして後の日の平安。島田さんの作品の中で、私はお子さんのことを書いた作品のところに来ると、立ち止まってしまう。徐々に重圧感に苛まれていく人生の中で、子どもは一筋の光であり、重圧感さえはねのけてしまう生命力を見せてくれる。しかし、その明るい希望さえもともすると暗い陰が覆う。生活と子育てを一人で守っていかなければならなくなった時、十分に手をかけることができなくなった子育てに、しみじみとした無力感と哀しみが漂う。精一杯子どものことを思っているのに、その思いはまっすぐ子どもには伝わらない。

子どもとの微妙な距離感を書いた作品がある。「ひざの上」という作品である。この作品もご紹介させていただこうと思う。


ひざの上


ひとりしか、いない子供が
麦のような夏のにおいのまま、
ある夜、すとんと私のひざに腰掛ける。
硬直したまま数秒、
あたりまえのように腰掛ける。
気まぐれなつむじ風のように、
子供は親のひざからすっくと立ち、
別のところへ飛んでゆくものだ。
私のひざは
忘れられたオモチャのように所在なげ。
熟さない
固く締まった桃のような子供の臀部。
ちょっとした重さのずっしりとくる責任感。
抱っこして、とは言わない。
快速列車のように時には通過もする。
私のひざは、ひとときのベンチ。
ひとときだけ。
そしていつか子供は、
そこにサヨナラをするものだ。






島田 奈都子(しまだ なつこ)

1965年東京生まれ
1998年はこだて愛のバレンタインメッセージ入選
2001年第2回越前町蟹と水仙の文学コンクール奨励賞
詩のフェスタひょうご佳作
2002年和歌山県主催「山の日」記念こんっクール詩部門最優秀賞
2002年「詩と思想詩人集2002」(土曜美術社出版販売)に詩が収録される
2003年『神さまからの電報』 第4回白鳥省吾賞優秀賞
詩と思想4月号「新人特集」にて詩が掲載される
(本書プロフィールよりコピー抜粋)
[PR]

by hannah5 | 2012-06-26 17:45 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)

<< 日本の詩を読む VII その6 日本の詩を読む VII その5 >>