野村喜和夫さん朗読会 ~ La Vpox des Poetes 詩人の聲   


7月31日(火)午後6時30分より、野村喜和夫さんの朗読会がありました(於東京平和教会)。昨年、アメリカで刊行された野村さんの英訳詩集Spectacle & Pigsty(Kyoko Yoshida , Forrest Gander訳)が2012 Best Translated Book Award in Poetryを受賞しましたが、朗読会はこれを記念して行われました。Spectacle & Pigsty は 『川萎え』 『反復彷徨』 『特性のない陽のもとに』 『アダージェット、暗澹と』 『幸福な物質』 『ニューインスピレーション』 『街の衣のいちまい下の虹は蛇だ』 『スペクタクル』 『稲妻狩』、plan14、『言葉たちは芝居をつづけよ、つまり移動を、移動を』 から数篇ずつが収められていて、原文が左頁、英訳詩が右頁というふうに置かれています。縦書きの作品が従って横書きで置かれており、なかなか新鮮です。
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「(あるいはマンハッタン)」という作品、読んでいていいなと思っていたので、一番最初に朗読された時はちょっと嬉しかったです。


(あるいはマンハッタン)


マンハッタンは
そこに近づくということだ

JFK空港からイエローキャブに乗って
私たちは目を凝らしつづけた
なかなかみえてこないね
と妻はいう(はじめてモロッコに
砂漠をみに行ったときもそうだったじゃないか
と私はなぐさめる

近づくことがすべて
マンハッタンとは
ひとつの砂漠(であるのかもしれない

そしてようやく
遠く蜃気楼のように
スカイスクレーパー群のシルエットが浮かび上がってきた
私たちは少し興奮し(ナツメヤシの茂るオアシスの町エルフードから
ランドローバーで三十キロ(いちめんの
土と岩の広がりの向こうに
たおやかな(あまりにもたおやかな
黄金色の砂丘のうねりが見えてきたとき(私たちは
少し興奮し

マンハッタンとは
自然の驚異そのもの(であるのかもしれない

それは近くの(クイーンズ?
ブルックリン? 建物や看板に隠れて
すぐにみえなくなってしまう(みえなくなって
またあらわれる(そのあいだに
成長し大きくなる
近づくという悦び
近づくという苦しみ
その交錯のあいだに(マンハッタンとは
成長し大きくなる

だがそのとき
それをふたたび隔てるように
高架地下鉄の赤錆びた橋梁(ほんとうに鮮やかに赤錆びて(だから
それを透かしてスカイスクレーパー群
その対比がまるでアメリカの光と影そのもののように

あるいは(こうもいえるだろう
マンハッタンが私たちへの贈り物であるとするなら
赤錆びた橋梁は
それをやや冗談のきついリボンのように飾って
私たちに差し出す(あるいは

マンハッタンとは
狂暴(であるのかもしれず
それをへだてる赤錆びた優しい檻
檻が縦や斜めに(唐草模様のように交錯して
私たちの頬を染める

けれどもさらに
その交錯を剥きあらわれ(かぎりなく
剥きあらわれ(剥きあらわれ(剥きあらわれ
もうリボンもなく頬もなく
林立の
無人の喉のように

マンハッタンとは
剥きあらわれ(剥きあらわれ

気がつくと
もうクイーンズボロ橋を渡りきって
私たちはまだ
無人の喉への
挨拶の言葉をもたない
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by hannah5 | 2012-08-01 13:25 | 詩のイベント | Comments(0)

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