日本の詩を読む VIII その1   


野村喜和夫さんの講義による「日本の詩を読む」の第8回目が11月5日(月)から始まりました。今回取り上げるのは宮沢賢治と中原中也です。1回目の昨日は宮沢賢治の「春と修羅」を読みながら、賢治の文学的姿勢を中心に講義が行われました。興味深かったのは賢治は何度も推敲を繰り返した人で、すでに出版された『銀河鉄道の夜』に4回も手を入れて推敲したそうです。しかし、4回目の推敲の最中に亡くなってしまい、最後の推敲は未完の草稿となっています。推敲を繰り返したため最初に書いた固有名詞が削られているものもあり、初稿は岩波文庫(谷川徹三編)に、最終稿は筑摩書房(入沢康夫、天沢退二郎)に校本全集として入れられています。



春と修羅
(mental sketch modified)


心象のはひいろはがねから
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲(てんごく)模様
(正午の管(くわん)楽(がく)よりもしげく
 琥珀のかけらがそそぐとき)
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾(つばき)し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(風景はなみだにゆすれ)
砕ける雲の眼路(めじ)をかぎり
 れいろうの天の海には
  聖玻璃(せいはり)の風が行き交ひ
   ZYPRESSEN  春のいちれつ
    くろぐろと光素(エーテル)を吸ひ
     その暗い脚並からは
      天山の雪の稜さへひかるのに
      (かげろふの波と白い偏光)
      まことのことばはうしなはれ
     雲はちぎれてそらをとぶ
    ああかがやきの四月の底を
   はぎしり燃えてゆききする
  おれはひとりの修羅なのだ
  (玉髄の雲がながれて
   どこで啼くその春の鳥)
  日輪青くかげろへば
    修羅は樹林に交響し
     陥りくらむ天の椀から
      黒い木の群落が延び
       その枝はかなしくしげり
      すべて二重の風景を
     喪神の森の梢から
    ひらめいてとびたつからす
    (気層いよいよすみわたり
     ひのきもしんと天に立つころ)
草地の黄金をすぎてくるもの
ことなくひとのかたちのもの
けらをまとひおれを見るその農夫
ほんたうにおれが見えるのか
まばゆい気圏の海のそこに
(かなしみは青々ふかく)
ZYPRESSEN しづかにゆすれ
鳥はまた青ぞらを截る
(まことのことばはここになく
 修羅のなみだはつちにふる)

あたらしくそらに息つけば
ほの白く肺はちぢまり
(このからだそらのみぢんにちらばれ)
いてふのこずゑまたひかり
ZYPRESSEN  いよいよ黒く
雲の火ばなは降りそそぐ



                              *****



【講義予定】
1.11月5日
2.11月12日
3.11月26日
4.12月10日
5.1月7日
6.1月21日
(会場は淑徳大学池袋サテライトキャンパス
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by hannah5 | 2012-11-06 19:32 | 詩のイベント | Comments(0)

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