日本の詩を読む VIII その6   


1月21日(月)は「日本の詩を読む」VIIIの最終講義でした。今回は中原中也における「詩と翻訳」-フランス近代詩と中也作品-を中心に講義が行われました。

中原中也はアルチュール・ランボーに傾倒、そのためにアテネフランセや東京外国語学校へ通ってフランス語を学び、小林秀雄と並んでランボーの翻訳を手がけました。中也はランボーの初期詩篇と後期韻文詩を翻訳、小林秀雄は『地獄の季節』(散文詩)と『イリュミナシオン』(初期には「飾画」と訳されていた)(散文詩)を翻訳しました。しかし、ランボーは『地獄の季節』以降文学を放棄、アポリア(問題否定)に陥った中也は以後ポール・ヴェルレーヌへと移っていきました。(ヴェルレーヌの作品に関しては翻訳をしなかったようです。)また、中也はヴェルレーヌやボードレールの原詩を借りて作品を書くこともしました。

教室で読んだ作品はシャルル・ボードレールの”Harmonie du Soir” (夕方のハーモニー)、上田敏が訳した「薄暮(くれがた)の曲」(『海潮音』)、中也がそれを翻案として書いた「時こそ今は・・・・・」、ポール・ヴェルレーヌの(Le ciel est, par-dessus le toit)、野村さんが訳された「(空は、屋根のむこうに―)」、ヴェルレーヌの詩を翻案として中也が書いた「帰郷」、中也の「骨」、それをアレンジした野村さんの「ほらほらこれがぼくの骨」でした。

次回の「日本の詩を読む」の講義は5月か6月頃、女性詩人を中心に読む予定です。


● 中原中也

時こそ今は……

              時こそ今は花は香炉に打薫じ
                          ボードレール

時こそ今は花は香炉に打(うち)薫(くん)じ、
そこはかとないけはひです。
しほだる花や水の音や、
家路をいそぐ人々や。

いかに泰子、今こそは
しづかに一緒に、をりませう。
遠くの空を、飛ぶ鳥も
いたいけな情け、みちてます。

いかに泰子、いまこそは
暮るる籬(まがき)や群青(ぐんじょう)の
空もしづかに流るころ。

いかに泰子、今こそは
おまへの髪(かみ)毛(げ)なよぶころ
花は香炉に打薫じ、


● 上田敏

薄暮(くれがた)の曲
          シャルル・ボードレール

時こそ今は水枝(みずえ)さす、こぬれに花の顫(ふる)ふころ。
花は薫じて追風に、不断の香の炉に似たり。
匂も音も夕空に、とうとうたらり、とうたらり、
ワルツの舞の哀れさよ、疲れ倦(う)みたる眩暈(くるめき)よ、

花は薫じて追風に、不断の香の炉に似たり。
痍(きず)に悩める胸もどき、ヸオロン楽(がく)の清掻(すががき)や、
ワルツの舞の哀れさよ、疲れ倦みたる眩暈(くるめき)よ、
神輿(みこし)の台をさながらの雲悲みて艶(えん)だちぬ。

痍(きず)に悩める胸もどき、ヸオロン楽(がく)の清掻(すががき)や、
闇の涅槃(ねはん)に、痛ましく悩まされたる優(やさ)心(ごころ)。
神輿(みこし)の台をさながらの雲悲みて艶(えん)だちぬ、
日や落入りて溺るるは、凝(こご)るゆふべの血潮(ちしほ)雲(ぐも)。

闇の涅槃(ねはん)に、痛ましく悩まされたる優(やさ)心(ごころ)、
光の過去のあとかたを尋(と)めて集むる憐れさよ。
日や落入りて溺るるは、凝(こご)るゆふべの血潮雲、
君が名残(なごり)のただ在るは、ひかり輝く聖体盒(せいたいごふ)。


● シャルル・ボードレール

Harmonie du soir

Voici venir les temps où vibrant sur sa tige
Chaque fleur s'évapore ainsi qu'un encensoir;
Les sons et les parfums tournent dans l'air du soir;
Valse mélancolique et langoureux vertige!

Chaque fleur s'évapore ainsi qu'un encensoir;
Le violon frémit comme un coeur qu'on afflige;
Valse mélancolique et langoureux vertige!
Le ciel est triste et beau comme un grand reposoir.

Le violon frémit comme un coeur qu'on afflige,
Un coeur tendre, qui hait le néant vaste et noir!
Le ciel est triste et beau comme un grand reposoir;
Le soleil s'est noyé dans son sang qui se fige.

Un coeur tendre, qui hait le néant vaste et noir,
Du passé lumineux recueille tout vestige!
Le soleil s'est noyé dans son sang qui se fige...
Ton souvenir en moi luit comme un ostensoir!
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by hannah5 | 2013-01-22 17:54 | 詩のイベント | Comments(0)

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