猫のイロハ   


猫、前向きの



後ろ向きの過去

前向きの先の方に触れる
そこは後ろ向きを入れる余地がないほど忙しく
ささくれ立たないほどぬるく

荷造りをそろそろ始めようかと思っていた
そこらじゅうにはびこってしまった後ろ向きをこそげ落として拾い集め
荷物の中にひとかけらずつ押し込もうと思っていた
(本当はどこからこそげ落としたらいいか迷っていたのだが)
プラスとマイナスの思案がぶつかって目の奥がしびれ出すころ
掌が荷造りよりもっといい感触になり
もっとすべすべして優しくなるような
言ってみれば
悲しい眼をして呟いてみる感傷よりずっと現実的な
脳みその表面で知る冷たさではなく
胃袋の中で溶け出すクリームのような感じが本当は好きだったんだ
と発見するような
そんな感じが急に広がった

体の奥が深々と呼吸(いき)をしていて、けれど
今日好きなものが明日は嫌いになるかもしれないという予測不可能ではなく
今日も明日もあさっても、その先も、
ずっと好きだよと言って毎日その通りになり

前向きの今が
精いっぱいの空間を占領している

(旋律30号掲載)
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by hannah5 | 2013-08-13 18:39 | 投稿・同人誌など

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