日本の詩を読む IX その8   


9月9日(月)は「日本の詩を読むIX」の8回目の講義でした。今回の講義は、つい先日出版された野村さんの詩集『芭(塔(把(波』(左右社)を読みながら始められました。これは8月28日に予定されていた講義が野村さんのご病気でキャンセルされたため、詩集はその埋め合わせとして野村さんが私たち受講生全員にくださったものです。内容は金子光晴の足跡を辿ってマレーシアへ旅行された時の詩です。作品には一切タイトルがなく、マレーシア旅行のことを詩にした言わば紀行詩のようなものだとおっしゃっていました。

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そして、今回読んだ作品は、蜂飼耳さんの詩集「染色体」と「食うものは食われる夜」、文月悠光さんの「適切な世界の適切ならざる私」でした。二人は言わば「ゼロ年代の詩人」と言ばれ、言葉遣いや形式など、これまで書かれてきた詩とはかなり違う詩を書く若手の詩人たちです。ゼロ年代の詩人について知らなかった受講生も多く、二人の作品はかなり新鮮なインパクトを与えたようです。


染色体

    蜂飼耳


草木密生
五穀成熟

おとこはすべておんなから出てくるのに
おんなを踏みつけるおとこがいて
(彼は おとこをあいするおとこ だったが)
ある日 はなやかな喧嘩になった
いっぱつかましてやんなきゃわかんないんだよ
このあま

と叫び 彼はほとんどすべてのおんなを
がっかりさせた
子宮感覚、などというものは幻想に
過ぎない としても わたしたちは
おんななので 配管のようすなども
 気に掛かる
  してみると

おんなははたと気が付きしっぽのように
からだを切り離しからだを棄てて
おとこが喰べるのを見届ける

   その間 まだ咲かぬ米の花のことや
  新発売の入浴剤の安売りが
 どこのドラッグストアだったか
など 考えたり

XでありYである わたしたちの
その先に何が あるのか あるべき なのか
闘いの果てのハンモック
おとこが寝静まると おんなたちは
秘密の唄を皮膚の下から無事飛び立たせる
  交わらない線を拒んで
 わたしたちのための数式をひらいていく
そこにいつも

草木密生
五穀成熟




適切な世界の適切ならざる私

     文月悠光


突き立てられたコンパスの針をすり抜けようと、ページの端から/楓の葉が見え隠れしている。風につねられた葉先は丸みを帯び、葉脈をたどろうとしたとたん、黒い活字に埋もれていく。揺れ動くページの輪郭が角をすり減らし、描かれた球体を茹でこぼした。卵のよろいがてらりと光り、教科書は湯気の立ちのぼりに引き裂かれていく。

とたんに全てが不適切。

職員室で落とされたコーヒーの一滴は
インスタントの宿命を抱き寄せ、血色を晴らす。
こっそりと流し込んだ砂糖の袋を
女は引き出しの中に入れておく。
ゴミはくずかごへ、
そのように女の良心は痛みを抱えている。
結えられたものが
引き出しの中で静かに
においこぼれている。
それは砂糖とも違う、
緩和された結び目となる。
ダイエットをしない先生も、
氷室の中では確かに妖女だ。

幼女が妖女になるとき。月の手にひかれて波はひしげる。点々と落とされた経血の紅から、それはアンタレスのあでやかさ。狩人オリオンの手から弓を奪った巨大サソリはいま、両腕を広げ、排卵している。天の川に隠された毒尾は月齢を知らないけれども、髪を結った少女の目に潮を吹きつけていく。

庭石の歪みが
はにかんだ蕾を立たせていたのに、
家に入ると、一階から二階のふくらはぎにかけて
花びらがまかれている。
バケツの縁から、花はいま
おだやかな
死に顔を咲かす。

ブレザーもスカートも私にとっては不適切。姿見に投げ込まれたまとまりが、組み立ての肩肘を緩め、ほつれていく。配られた目を覗きこめば、どれも相違している。そこで初めて、一つ一つの衣を脱ぎ、メリヤスをときほぐしていく。それは、適切な世界の適切ならざる私の適切かつ必然的行動。

幼女である私の骨をひとかけら噛み砕けば、
キン、とするほど冷たい。
それは、幼女が妖女へ誘い込まれている証。凍てた爪先で氷盤に躍り出る夢が、ある夜半まぶたの裏に火をつける。氷室の火にくべられた骨々から、妖女が仄めく。身体の内から突かれるような痛みに、私は袂を振った。とたんにそで口から転がり落ちる骨のつらら。つややかに身をほどき、それは土に染み透っていく。
懐のドロップ缶がカタカタと震えだす。
骨が笑う。
私は氷室への旅路を急いだ。
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by hannah5 | 2013-09-15 16:01 | 詩のイベント | Comments(0)

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