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一切れの季節   

おずおずとそっと一切れ差し出し
一番小さな肉片を遠慮がちにとった君
何をお喋りしたのだろう
逃すまいと必死で聞いていたはずなのに
語り合ったことが空気の中に溶け出して
その向こうに恥かしげにほほ笑む君の笑顔がひっそりと佇む
君と向かい合って座る幸せで心が一杯になって
聞きたかったことが全部消えてしまった

どこを歩いたのだろう
とめどもないお喋りの合間に
嬉しさだけが漂っていたね
何時間も歩き回って
服の生地がずらっと並んでいた店先や
ちょっと品のない洋服がぶらさがっていたのは覚えているけれど
初めて訪れた町なのに妙に懐かしくて
すぐにでも行きたい店が見つかりそうなアーケード
ひたすら歩き回って
どこへ行きたいわけでもなかったのにね

参加してもいい?
そう問いかけた私の目に
ううん、と否定してみせた君の目
きれいな切れ長の目が涼しく光った
一瞬にして哀しみを了解する目
君はその目で何を見てきたのだろう
何を考えてきたのだろう
君のその目を見た瞬間
たくさん語ってきた言葉がすべて空しく消えてしまった

君に会った幸せは消えないよ
あれから
静かな夜更けに君の言葉をずっと読みつづけている

by hannah5 | 2004-07-22 04:17 | 作品(2004-2008)

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