私の好きな詩・言葉(168)   


矜持


タイトルクレジットの
名前の一文字を

たわいないシーンの
傍らに置かれている小物に

俳優たちが着ている
衣装の一部に

もしくは
台詞やト書きの
狭間にも

監督は
赤、を置いた。

目立ちすぎない、赤
アクセントのような
色合い。

白黒スタンダード作品に
最後までこだわった監督だった。
律儀な物語を撮り続けた。

カラー作品に移行してのち
その律儀さに
柔らかな赤が加わった。

たとえば
きりりと晴れた
二月の朝

まだ人の少ない都心のベンチに
新鮮なリンゴを
ひとつ置いてみる。

時は遡り
あたり一面、白黒の光景である。

(長谷川忍詩集 『女坂まで』 より)







ひと言

たぶん、この映画は私自身観ていないと思うが、映像が鮮やかに浮かび上がってくる。一見地味に見える白と黒の世界。しかし、その中で使われている「赤」がアクセントとなって、映像全体に強いインパクトを与えている。カラー映画に移行しても、「赤」はこの監督の作品の中で重要なモチーフとなっている。

  たとえば
  きりりと晴れた
  二月の朝

  まだ人の少ない都心のベンチに
  新鮮なリンゴを
  ひとつ置いてみる。

この部分はもっとも私に強く迫った部分だ。

3冊目となる長谷川さんのこの詩集は、これまでの詩集以上に密度と濃度が濃く、静かだが力強い吸引力をもっている。タイトルの「女坂まで」も良いし、藍色の表紙の装幀も魅力的だ。作品は他に「渇き」に魅かれた。秀逸な詩集。




長谷川 忍(はせがわ しのぶ)

1960年 神奈川県川崎市生れ
詩集 『ウイスキ綺奇譚』(1995)、『遊牧亭』(2003)
個人誌 『街景』
(詩集よりコピー抜粋)
[PR]

by hannah5 | 2015-09-23 18:11 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)

<< 私の好きな詩・言葉(169) 『ひよこの空想力飛行ゲーム』 追記 >>