日本の詩を読む IX ~ 詩的アヴァンギャルドの100年(第3回)
2015年 12月 30日
「日本の詩を読む~詩的アヴァンギャルドの100年」の3回目は「新傾向の渦(大正末期から昭和初期にかけて)」と題し、日本のダダイストの詩を中心に講義が行われました(12/21)。(2回目の講義は欠席しました。)1914年、ヨーロッパを中心に第一次世界大戦が勃発、機関銃や大砲、戦車などの大量殺戮兵器が登場し、一般市民も戦争に巻き込まれるなど、それまでの戦争とはまったく異なる戦争が繰り広げられようになります。自由や人権、民主主義が崩壊し、意味や意味から成り立っている価値観を認めないダダイズムが登場、ツァラによって始まったダダイズム(チューリッヒ・ダダ)はやがて日本の詩人にも影響を与えるようになりました。教室で読んだ詩は日本のダダイストの代表である高橋新吉の「料理人」、「皿」、「食堂」、萩原恭次郎の「日比谷」、ダダイズムと同時期に現れたエスプリ・ヌーボー(新しい精神)に影響された竹中郁の「ラグビイ」、そして野村喜和夫さんの実作「暴行病棟」です。それにしても驚かされるのは、今から100年も前にすでに現代詩が現れていたことで、現代にある詩はすでに出尽くしている感じがします。(引用した詩は高橋新吉の詩です。)
料理人
料理人の指がぶら下つてゐる
茶碗拭きの鼻が垂れ下つてゐる
残飯生活は皿なし
葱の匂ひ
庖丁の嫉視
燻るものは
くすぶれ
皿
皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿
倦怠
額に蚯蚓這ふ情熱
白米色のエプロンで
皿を拭くな
鼻の巣の黒い女
其処にも諧謔が燻つてゐる
人生を水に溶かせ
冷めたシチユーの鍋に
退屈が浮く
皿を割れ
皿を割れば
倦怠の響が出る。
食堂
食堂に桜の花が咲いた
酢鮹
瓦斯の焔が食べたい。
頬ペタ卵の殻が喰付いてゐた
銀座
泥酔者の胃袋を女猫が恋しがつて
撥ねくり返つてゐる残飯桶に
黄疸色の神が 跼むでゐる
雨が降る
オドの匂ひから遠ざかりたい
夢に耽る胃拡張患者
by hannah5 | 2015-12-30 06:05 | 詩のイベント