日本の詩を読むXI ~ 緊急的戦後詩再読提言(第1回)   


野村喜和夫さんが講義される「日本の詩を読む」が始まりました。戦後70年、ずっと平和を享受してきた日本ですが、ここへきて少し不穏な気配が漂うようになりました。そのせいかどうかわかりませんが、今戦後詩が読み直されているようです。そこで11回目の「日本の詩を読む」は戦後詩を読むことになりました。(野村さんは最近台湾へ行かれていたせいか、タイトルは漢字ばかりです(笑))1回目の10月31日は鮎川信夫についての講義でした。読んだ詩は「死んだ男」と鮎川信夫が18歳の時に書いたという「扉の中」でした。




死んだ男


たとえば霧や
あらゆる階段の跫音のなかから、
遺言執行人が、ぼんやりと姿を現す。
――これがすべての始まりである。

遠い昨日・・・・・
ぼくらは暗い酒場の椅子のうえで、
ゆがんだ顔をもてあましたり
手紙の封筒を裏返すようなことがあった。
「実際は、影も、形もない?」
――死にそこなってみれば、たしかにそのとおりであった。

Mよ、昨日のひややかな青空が
剃刀の刃にいつまでも残っているね。
だがぼくは、何時何処で
きみを見失ったのか忘れてしまったよ。
短かかった黄金時代――
活字の置き換えや神様ごっこ――
「それがぼくたちの古い処方箋だった」と呟いて・・・・・

いつも季節は秋だった、昨日も今日も、
「淋しさの中に落葉がふる」
その声は人影へ、そして街へ、
黒い鉛の道を歩みつづけてきたのだった。

埋葬の日は、言葉もなく
立会う者もなかった、
憤激も、悲哀も、不平の柔弱な椅子もなかった。
空にむかって眼をあげ
きみはただ重たい靴のなかに足をつっこんで静かに横たわったのだ。
「さよなら、太陽も海も信ずるに足りない」
Mよ、地下に眠るMよ、
きみの胸の傷口は今でもまだ痛むか。





扉の中


カレンダーに音楽が流れ
華の咲いてゐるテーブル
竜舌蘭を食べてゐる紳士は
今晩十二時に出帆します
海に向って帽子をふって
震へてゐる爪に霧がかかる

杳い寒帯から運ばれたミルクに溺れる頃
扉の外をマアチが風と共に過ぎる
盛んに蠟を焚く女のプロフィル
海の景色はこんなに暗い青でせうか

油絵の裏に隠れてゆく黄ろい月
軍艦はシーツの皺に沈没する
窓を開けると雪が踊ってゐる
逃げてゆくのは白い犬だ
雪に埋まる扉





【緊急的戦後詩再読提言-講義予定】

1.鮎川信夫Ⅰ
2.鮎川信夫Ⅱ
3.田村隆一
4.北村太郎
5.石原吉郎・吉岡実
6.吉本隆明
7.谷川雁・黒田喜夫




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by hannah5 | 2016-11-05 23:33 | 詩のイベント | Comments(0)

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