日本の詩を読むXI ~ 緊急的戦後詩再読提言(第3回)   


「戦後詩を読む」の第3回目は田村隆一についてでした(12/12)。田村隆一は荒地派の詩人たちの中でも私にとっては比較的近づきやすい詩人ですが、それはどこか江戸っぽさがあったり(東京生まれの東京育ち)、端正な雰囲気や英国趣味的なものを持っていたりする点に起因しているのかもしれません。講義は田村隆一の垂直性の詩学、対句的書法(エクリチュール)などの話を中心に進められました。読んだ作品は「腐刻画」、「幻を見る人」、「立棺」でした。



立棺




わたしの屍体に手を触れるな
おまえたちの手は
「死」に触れることができない
わたしの屍体は
群集のなかにまじえて
雨にうたせよ

  われわれには手がない
  われわれには死に触れるべき手がない

わたしは都会の窓を知っている
わたしはあの誰もいない窓を知っている
どの都市へ行ってみても
おまえたちは部屋にいたためしがない
結婚も仕事も
情熱も眠りも そして死でさえも
おまえたちの部屋から追い出されて
おまえたちのように失業者になるのだ

  われわれには職がない
  われわれには死に触れるべき職がない

わたしは都会の雨を知っている
わたしはあの蝙蝠傘の群れを知っている
どの都市へ行ってみても
おまえたちは屋根の下にいたためしがない
価値も信仰も
革命も希望も また生でさえも
おまえたちの屋根の下から追い出されて
おまえたちのように失業者になるのだ

  われわれには職がない
  われわれには生に触れるべき職がない



わたしの屍体を地に寝かすな
おまえたちの死は
地に休むことができない
わたしの屍体は
立棺のなかにおさめて
直立させよ

  地上にはわれわれの墓がない
  地上にはわれわれの屍体をいれる墓がない

わたしは地上の死を知っている
わたしは地上の死の意味を知っている
どこの国へ行ってみても
おまえたちの死が墓にいれられたためしがない
河を流れて行く小娘の屍骸
射殺された小鳥の血 そして虐殺された多くの声が
おまえたちの地上から追い出されて
おまえたちのように亡命者になるのだ

  地上にはわれわれの国がない
  地上にはわれわれの死に値いする国がない

わたしは地上の価値を知っている
わたしは地上の失われた価値を知っている
どこの国へ行ってみても
おまえたちの生が大いなるものに満たされたためしがない
未来の時まで刈りとられた麦
罠にかけられた獣たち またちさな姉妹が
おまえたちの生から追い出されて
おまえたちのように亡命者になるのだ

  地上にはわれわれの国がない
  地上にはわれわれの生に値いする国がない



わたしの屍体を火で焼くな
おまえたちの死は
火で焼くことができない
わたしの屍体は
文明のなかに吊るして
腐らせよ

  われわれには火がない
  われわれには屍体を焼くべき火がない

わたしはおまえたちの文明を知っている
わたしは愛も死もないおまえたちの文明を知っている
どの家へ行ってみても
おまえたちは家族とともにいたためしがない
父の一滴の涙も
母の子を産む痛ましい歓びも そして心の問題さえも
おまえたちの家から追い出されて
おまえたちのように病める者になるのだ

  われわれには愛がない
  われわれには病める者の愛だけしかない

わたしはおまえたちの病室を知っている
わたしはベッドからベッドへつづくおまえたちの夢を知っている
どの病室へ行ってみても
おまえたちはほんとうに眠っていたためしがない
ベッドから垂れさがる手
大いなるものに見ひらかれた眼 また渇いた心が
おまえたちの病室から追い出されて
おまえたちのように病める者になるのだ

  われわれの毒がない
  われわれにはわれわれを癒すべき毒がない



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by hannah5 | 2016-12-19 14:26 | 詩のイベント | Comments(0)

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