釈然としていた頃   


釈然としていた頃
      ――『新井豊美評論集』に寄せて 


今も、生きて語るその言葉に
務めて置いてきたものや
意識的に封印したものの
鋭く尖ったぎざぎざの鮮烈が
ふっつと熱くなる

熱は
いつもそうして
置き去りにしてきたような気がする
生(なま)の鼓動と
裸をさらし
恥部をさらしても なお
呼吸(いき)ることが
生きて進んでいくことの悦びだった

飽きることなく踊りつづけた
一人遊び
赤剝けの旋律がひたすら愛おしく
どこまでもするすると延びていくそれは
永遠の匂いがした

言葉が
忘れずに起き上がる
想起され
集められたり捨てられたりしたものが
私の前で自由に動いていたことが
今もそうあるように
そのように続いていくように


残された言葉はそのひとそのもので
病に冒されていなかった頃の
凛とした佇まいが蘇る
私たちが決して垣間見ることのできなかった
硬質な輝き
奥のそのまた奥底に埋(うず)められていたものが
初めて覗かれることを許している


(詩と思想 2016年11月号掲載)



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by hannah5 | 2017-01-17 19:22 | 投稿・同人誌など

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