私の好きな詩・言葉(45) 「わたしを束ねないで」   

私はフェミニストでもなければ、女性を殊更弁護するものでもない。「私」という一個の人間が偶然にも「女」という性をもって生まれ、生きているだけだ。「私」は地上のあらゆる人間が歩く道を歩き、人間が誰しももつ可能性をもち、多くの人間たちと思考を共有している。しかし、そういう「私」に対して、社会はあらゆる面で型にはまった「女」を押しつける。

新川和江の「わたしを束ねないで」に共鳴した。詩人は「わたし」は「見渡すかぎりの金色の稲穂」であり、「羽撃き」、「とほうもなく満ちてくる苦い潮」であると、海のような広がりを有する自分を詠んでいる。同時に、詩人もまたあらゆる人間の大きな流れの一部であることを認めている。最後の2行は「私」が大河の一部になって広がりながら流れていく安らかさがある。


「わたしを束ねないで」


わたしを束ねないで
あらせいとうの花のように
白い葱のように
束ねないでください わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色(こんじき)の稲穂
     
わたしを止(と)めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください わたしは羽撃(はばた)き
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音

わたしを注(つ)がないで
日常性に薄められた牛乳のように
ぬるい酒のように
注がないでください わたしは海
夜 とほうもなく満ちてくる
苦い潮(うしお) ふちのない水

わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
座りきりにさせないでください わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風

わたしを区切らないで
,(コンマ)や.(ピリオド)いくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください わたしは終りのない文章
川と同じに
はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩


(新川和江第五詩集『比喩でなく』(1968年)所収、大岡信編『現代詩の鑑賞101』より)




新川和江(しんかわ かずえ)(1929-)

詩人。
茨城県生まれ。
県立結城高女卒。
「地球」に参加。「ラ・メール」創刊。
詩集『睡り椅子』 『絵本「永遠」』 『ローマの秋・その他』 『比喩でなく』 『土へのオード13』
『夢のうちそと』 『ひきわり麦抄』 『はね橋』
[PR]

by hannah5 | 2005-07-24 18:19 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(2)

Commented by greenmoon9 at 2005-07-25 00:19
これ、知ってました!
御存知の通り、殆ど詩をしらない自分ですが・・・
「金八先生」で武田鉄也が読んでたんです。
この詩はすごいなぁ~と思いながら、
生徒になった気分で一緒に聞いてました。(笑)
すごく、くる詩ですよね。
こんな自分でも感動したんですから。。。
Commented by hannah5 at 2005-07-25 19:51
*greenmoon9さん、おぉ、この詩を知ってる方がいらしたとは!
いい詩ですよね。
広い大地のような大海原のようなこの詩は、女性だけに限ったことではなくて
束縛されたくないと思っている人すべてに言えるのではないかと思います。

<< 連帯感 詩を織りながら >>