私の好きな詩・言葉(57) 「初恋」 (島崎 藤村)   


まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅(うすくれなゐ)の秋の実に
人こひ初めしはじめなり

わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃(さかづき)を
君が情(なさけ)に酌(く)みしかな

林檎畠の樹(こ)の下に
おのづからなる細道は
誰(た)が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ


(『若菜集』より)



解説

なぜか島崎藤村の 『若菜集』 が読みたくなった。ほとんど現代詩ばかり読んできた私には、藤村の詩は驚くほど新鮮だった。日本語の詩は五七五七のリズムがあると覚えやすいときく。たしかに、藤村の詩を読んでみると、言葉に力があり、美しく、情景が鮮明に浮かんでくる。

来週、また藤村の違う詩集から読んでみたいと思う。


島崎 藤村(しまざき とうそん)(1872-1943)

詩人、小説家。本名は島崎春樹。

1872(明5)  筑摩県第八区大区五小区馬篭村(現、長野県木曽郡山口村神坂区馬篭)に生
          まれる。島崎家は代々、木曾街道馬篭宿の本陣、庄屋、問屋を務めた。父はそ
          の十七代当主。

1886(明19) 三田英学校(現、錦城学園)に入学。後、共立学校(現、開成高校)に転校。

1887(明20) 明治学院普通学科本科に入学。

1888(明21) 高輪の台町教会で木村熊二牧師から受洗。

1893(明25) 北村透谷の「厭世詩家と女性」を読んで感動する。
          9月、明治女学校高等科英文科の教師になる。月給十円。

1893(明26) 星野天知、北村透谷らと 『文学界』 創刊。
          教え子佐藤輔子を愛したことから明治女学校を退き、教会を脱した。

1894(明27) 北村透谷が自殺。

1895(明28) 佐藤輔子が死去。教職を辞す。

1899(明32) 明治女学校卒業の泰冬子と結婚。冬子は函館の網問屋泰慶治の次女。

1910(明43) 妻冬子死去。

1913(大2)  姪こま子との関係を清算するため度仏。

1916(大5)  7月、こま子帰国。9月、早稲田大学講師になる。

1917(大6)  姪こま子との関係が復活。
          慶応義塾大学で仏文学を講義。

1918(大7)  姪こま子台湾の長兄秀雄のもとに引き取られていく。

1923(大12) 一月初め、軽い脳溢血で倒れる。2月、小田原で静養。

1928(昭3)  助手加藤静子と結婚。

1938(昭10) 日本ペン・クラブを結成。初代会長に就任。

1940(昭15) 帝国芸術院会員になる。

1943(昭18) 脳溢血で倒れ、死去。享年71歳。

作品

詩集に 『若菜集』、『落梅』、『一葉舟』、『夏草』、小説に 『破戒』、『春』、『家』、『夜明け前』 などがある。
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by hannah5 | 2005-10-23 23:38 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(8)

Commented by halfmoon81 at 2005-10-24 06:16
この詩、大好きです。なんともいえない初々しさが感じられて。
上村松園の絵のような透明感もありますね。
Commented by warau_1 at 2005-10-24 15:38
この詩を読むと、千曲川を思い出します。「古城のほとり、雲白く勇姿悲しむ・・・・・・・・」。島崎藤村の詩は、彼が亡くなってから有名になり「働けど働けど我が暮らし楽にならざり、じっと我が手の平を見る」痛々しい光景ですね。明日は、わが身と思しきも、いつしか雑踏に紛れし思い。また来ます。
Commented by squeu at 2005-10-24 22:54
最近 めっきり日本的なものに触れる機会なくなった気がします。
この間 対象者との距離、なんとも日本的な感じですね・・・そんな 奥ゆかしさを感じるとき時間がゆったりと流れていく気がします。
Commented by hannah5 at 2005-10-24 23:28
*halfmoon81さん、藤村がきれいな気持の頃に作った詩なのでしょうね。
それにしても、久しぶりに古語の詩を読み、
あらためて日本語の美しさに感動しています。
Commented by hannah5 at 2005-10-24 23:34
*笑うさん、最初の詩は、「小諸なる古城のほとり」という藤村の詩で

小諸なる古城のほとり
雪白く遊子悲しむ
緑なすはこべは萌えず
しくによしなし・・
(以下省略)

ですよね。

2番目にあげられた歌は石川啄木の『一握りの砂』に収められた短歌の中のひとつですね。

はたらけど
はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり
ぢっと手を見る

みんな混同されましたね(笑)
Commented by hannah5 at 2005-10-24 23:37
*squeuさん、最近めっきりって。。。だって今、中国にいらっしゃるんでしょう?
じゃあ、めっきり少ないですよね?(笑)
たまには、こういう古めかしい詩も新鮮でいいものですね。
Commented by sya_rokkukan at 2017-03-22 17:32 x
半世紀も昔、クラスで皆が歌った詩。懐かしく思い出されました。千曲川旅情の歌も皆が競争して覚えたものです。昨年は小諸で岸辺に降りて、歌って、藤村の気持ちにふけりました。やはり現地に出かけると趣が違ってきますね。
Commented by hannah5 at 2017-03-24 05:10
小諸は今頃の季節に一度だけ行ったことがあります。たしか梅園を歩いたような記憶があります。
情景描写が入っている詩は、たしかに現地へ行くと、詩で描かれた情景がはっきりしてくるのでしょうね。
この詩は教科書にも載っている詩なので、暗唱されたことなど思い出されたのですね。
sya_rokkukan さん、コメントありがとうございました。

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