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小さな窓   

昔、住んでいた寮の部屋には
小さな窓がひとつついていて
勉強に疲れるたびに
窓の外の景色を飽かず眺めた
窓の外は学校の裏の林
朝早く、たくさんの小鳥達が澄んだ声でさえずり
私はよく小鳥の声で目を覚ましたものだ
林の中に家があって
夜になると明かりが灯った
冬には小さな小川に雪が積もり
すべて凍ってしまうのに
春になると小さな生き物が
泳いでいたのを思い出す

あの頃、あの窓から見える風景が
小さな部屋から見える外界のすべてで
ふるさとのことや
置いてきた友人のことや
学校を卒業したあとのことを
とめどもなく考えては
季節がうつろうたびに変わる林を
目で追い 耳で聞き
いつかこの学校を卒業したら
するであろう教会の仕事などを考えていた

学校の裏の林を
たまに一人で歩いてみたりしたけれど
どこかにいつも人の気配を感じて
寂しいと思ったことはなかった
部屋に住む人は変わったけれど
あの窓から見える風景は
たぶん今も変わらないだろう
小さな窓から林を見ながら
ずっと先の将来を見つめていたことが
今はただ懐かしい
将来が見えなくなると
祈りながら歩いた林や小川のことを
思い出してはじっと見つめることにしている




(5.29)

by hannah5 | 2004-08-04 07:11 | 掲示板時代(2004)

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