私の好きな詩・言葉(63) 「プラチナの月」(桂 浩子)   


忘れてはいないから、
ずっと思い出にはならない

最終のロープウェイに乗って
やっと着いたツララだらけの駅
さあ、とスキーを履いた時
あともう少し待ってから滑ろう、とアナタが言った
もうあたりには人の姿もなくなって
大きすぎる木と真っ白な雪
こわいくらいの夜が間近に迫ってきていた

ほら、これ。
これが僕からのプレゼント。

指差されたその先に
見たこともないくらい
磨きぬかれた銀色の明るく丸い光・・・・・
肉眼でもわかる、その球形は
私の知っている月の印象を
くつがえされるくらいの衝撃
普段、口にしないような
美しいね、って言葉を声にしたのは
これが最初で最後だった

これなら重荷にならないだろ?

滑り降りる二人を
ずっと見守ってくれていたプラチナの月
でも、
照らされていたのは後ろ姿だけだった

形にしてもらっていたら
とっくに捨てられたのに、
秋になって丸みを帯びる月を見る度に
あのプレゼントを抱えていられなかった自分が影に映る
あの時以上の美しい月に
出会えないことがわかっている分、
私に今ある幸せまでが憎らしくなってくる

なかった勇気と
捨てられなかった日常
そして輝き続ける、永遠の・・・・・
プラチナの月


(島 秀生編・著 『ネットの中の詩人たち 4』 より)



解説

人影のない夜のゲレンデ。真っ白な雪を晧々と照らす月。美しい絵のようなひと時はこぼれてしまったけれど、今も思い出とならずにそこにある。

桂浩子さんの「プラチナの月」を読んでいるうちに、私はこの詩人の思いの中に入っていました。そして、こう思いました。私もたぶん勇気はなかっただろうけれど、きっとプラチナの月は忘れないにちがいない、と。

最近、偶然書店で 『ネットの中の詩人たち 4』 という本を見つけました。本を読みながら、ネットの中で詩を書く人たちがこんなにもいたのかと嬉しくなりました。この本に収められている詩は、本の編者の島秀生さんが運営される詩の掲示板「MY DEAR」で育った詩人さんたちの作品です。ネットというともすると不安定な世界の中で、詩人としてこんなふうに育ててもらい、やがて羽ばたいていく。なんて素敵なことなんだろうと思いました。

機会があったら、一度読んでみてください。
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by hannah5 | 2006-01-16 00:06 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(6)

Commented by al17 at 2006-01-16 09:54
素敵なご紹介有り難うございます。
「プラチナの月」ゾクゾクって来ました。
Commented by turezure_asagi at 2006-01-16 21:45
ありがとうございました。
私も 「プラチナの月」ぞくってきました。

月って不思議です。
冷たい月
暖かい月
様々に色をかえる。

プラチナの月・・・・

素敵な響きです。
Commented by aki at 2006-01-16 22:31 x
 読んでみたくなりました。『ネットの中の詩人たち』。
Commented by hannah5 at 2006-01-16 23:10
*あきさん、月の光がし~んと染み渡るようですよね
Commented by hannah5 at 2006-01-16 23:17
*turezure_asagi さん、忘れられない響きですよね。
女心に響く詩でしょうね。
Commented by hannah5 at 2006-01-16 23:18
*aki さん、ぜひぜひ^^

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