私の好きな詩・言葉(69) 「早春のバスの中で」(吉野 弘)   


まもなく母になりそうな若いひとが
膝の上で
白い小さな毛糸の靴下を編んでいる
まるで
彼女自身の繭の一部でも作っているように。

彼女にまだ残っている
少し甘やかな「娘」を
思い切りよく
きっぱりと
繭の内部に封じこめなければ
急いで自分を「母」へと完成させることが
できない
とでもいうように 無心に。


(新現代詩文庫 『新選 吉野弘詩集』 より)




解説

「早春のバスの中で」は読んだ時、あたたかくて優しくて、ふんわりとした白い毛糸の玉が靴下を編んでいる若い女性を象徴しているような感じがした。彼の他のどの詩よりも鮮明に印象に残った詩だ。

吉野弘の詩には繊細な悲しみが漂う。それは吉野弘自信の意図するところではないだろうが、彼の詩の根底には人生の悲哀があるようだ。吉野弘も最近まで知らなかった詩人の一人。彼の詩は繊細で美しく、読む者の心を打つ詩が多い。


吉野 弘(よしの ひろし)(1926年―)

詩人。山形県酒田市に生まれる。旧制酒田市立工業高校卒。18歳の時、高村光太郎の 『道程』 を読み深い感銘を受けた。昭和19年、大日本帝国最後の徴兵検査を受け、合格したが、入営予定日の5日前に敗戦を迎える。24年、敗戦直後からの勤務先での組合運動の過労のため発病、胸部手術を受け、3年ほど療養生活を送る。25年頃より 『詩学』 に投稿を始め、28年、川崎洋、茨木のり子の創刊した 『櫂』 に3号から参加。『櫂』 解散後は、33年に 『今日』 に加わる。

第1詩集は32年の自家版 『消息』。34年、『幻・方法』、39年には詩画集 『10ワットの太陽』 を刊行。他に 『感傷旅行』 (読売文学賞受賞)、『虹の足』、『北入曾』、『風が吹くと』、『日本の愛の詩』がある。
(集英社 『現代詩集二』 「吉野弘」より

(集英社 『日本の詩・現代詩集二』 より引用抜粋)
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by hannah5 | 2006-03-27 00:07 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(4)

Commented by aki at 2006-03-31 18:35 x
 この詩は知らなかったんです。急いで母にならねばとでもいうかのような初々しい焦り、熱意。よくこの詩人はそれに気づいて詩に……と思いました、、、
Commented by hannah5 at 2006-04-01 00:43
*aki さん、吉野弘はすごい詩人だなぁと最近感心しながら読んでいます。
どの詩も絹のような美しさがあり、それでいて、とても人間味があって、いいですね。
Commented by saidenryu at 2006-04-23 12:25
こんにちは、 詩人について超有名人以外はほとんど知らないので
2日前に図書館で詩集を片っ端から斜め読みしていました。
いいなあと思った詩集が2冊、吉野弘さんと垣内磯子さんでした。
今日、詩織さんの この「私の好きな・・・」に飛んでみたら
吉野弘さん が紹介されていたので びっくりしました。
吉野弘さん いいです。 
Commented by hannah5 at 2006-04-23 23:28
*saidenryu さん、吉野弘さん、いいですよね^^
丁寧に絹のように書かれていて。
私も詩人については、現在勉強中です。

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