私の好きな詩・言葉(76)「Debut (デビュー)-Y.Mへ」(三浦 志郎)   


午前は雨
午後は晴れて風がある

私はここを定位置とし
ただ 見守ろう

いや この場合
視覚よりも聴覚こそが
優先されねばならない

初めてやって来て
通過してゆくものは
人に何度か訪れるものだが
何ごとかを志し追いかける者にとっては
さらに多くの機会があるはずだ
しかもそこには
さらに高みへの階(きざはし)もあるはずだ

午前は雨
午後は晴れて風がある

その風に後押しされて
おまえは翻訳する
内奥に生まれた一陣の風を
喉元にあって出ようとする言葉を
おまえは口移しに翻訳する

お前はそこを定位置とし
昔の塊の
行方を見届けることをせよ
調和と主張の
接点を求めることをせよ
心懐かしく遥かな音がするではないか

その左肩を占めるゴールドの曲線が
おまえの音風
武器であり媒体だ

人々はきっと汲みとるだろう
すでに煮詰まったものでなく
走り始めたばかりの
清新の技巧

私はその門出を聴き
ただ 手を打ち鳴らすだろう




他1篇


「風の痛み」

星も見えない澱んだ夜は
静けさの重みを揺らすように

破風 破風
セリ セリ セリィー と

小さな物音を聴かないか?
まだ幼さを残しながら
走り出した風の
体が引き裂かれる
初めての痛みの音

バラの棘や
ひいらぎの葉形に
耳を近寄せると

破風 破風
セリ セリ セリィーと

透明な血の音を流して
たった今行き過ぎたのを見ないか?
破られた風の息づかい
なまぐさい空気の名残り

一夜で大人びた その風は
慕うように 舞い戻り
葉をくすぐる
茎に爪を立てる
痛みがざわめくほどに
それは
甘やかな復讐

「痛い?」 おどけながらの片言
「わたしは もっと痛かった・・・」
そう 言いおいて
後ろも見ずに駆け出してゆく
いつともなく消えたのは
傷ついた肌をした
風のかたち


解説

三浦志郎さんは、島秀生さん主宰の詩のサイト MY DEAR で島秀生さん、伊藤浩子さんとともに、私の詩を見て評をくださるもうひとりの詩の先生です。私の拙い詩から文学論、社会論ありの詩論を展開してくださり、いつも評を楽しみにしています。

「Debut (デビュー)-Y.Mへ」は高校生のご子息がブラスバンドでデビューされたことを詠んだ詩だそうですが、未来に向かって進んでいる若者のすがすがしさと、それを見守る父親のあたたかな眼差しに心あたたまるものを覚えました。


三浦 志郎(みうら しろう)

詩人。横浜詩人会会員。
ネット誌「MY DEAR」で評をくださる先生。
「 『朝起きて詩を想い、昼の仕事中頭に詩がよぎり、夜は詩言葉と共に添い寝する。してみると、僕の実生活はどこにあるのだろう?』 な~んて、一度でいいから言ってみたい!」( 『ネットの中の詩人たち 4』 の三浦さんの言葉より)
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by hannah5 | 2006-06-11 18:43 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)

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