私の好きな詩・言葉(91) 「夕焼け」 (林 木林)   


林檎を手にとったり
苺の蔕をとったり
さくらんぼを洗ったりするときに
ふとおもう

私の体じゅうに流れているのは
もしかすると夕焼けで

私の膝小僧の奥を流れる夕焼けの中で
小学生の私がいま擦り剥いた膝を抱いて
真っ白な月を空にみつけている

私の肘のあたりを流れる夕焼けの中で
三歳の私がいま小さな肘を
曲げ伸ばししながらお遊戯をしている

私の胸のあたりを流れる夕焼けの中で
私はいま生まれたばかりで
自分を包む赤い色が
夕焼けだともわからないで泣いている

指を包丁でうっかり切ってしまって
滲んでくる血を眺めるときも
ふと見つめている

私の指の先で 夕焼けに染まった
木々の枝の先がざわめいているのを

私は空の奥から雷が鳴るのを
自分の心臓の鼓動とも知らずに聞きながら
アパートへといつもの坂を上がり
自分の爪先の方へいま歩いていることも
知らずに
細い坂道を駅へと下ってゆく

いつどこを私が歩いていようとも
未来の私の記憶の中を駆け巡っているだけだ
何十年後の私の脳裡に
広がるであろう朝靄の中を
未来の私の
もしかすると晴れることのない深い霧の中を
体じゅうを駆け巡る赤い血の夕焼けの中を

薮の奥で耳鳴りがしたのかと耳をすませば
鈴虫が鳴いているのだったり
小さなカサブタが剥がれたのかとおもえば
枝からまた枯れ葉が離れたのだったり

柿の実をもいだり
トマトを切ったり
人参を刻んだりするときも
ふと見あげると空が赤い

血の巡りのように世界じゅうを流れている
夕焼けがあるから
世界が生きているのだとわかる


第15回詩と思想新人賞、林 木林(うにまる)「夕焼け」より)





ひと言

第15回詩と思想新人賞で見事選考委員全員一致で林木林(うにまる)さんの作品「夕焼け」が選ばれました。選考委員の一人、新川和江さんが次のように評されています。「構造を同じくする大地や、自然との一体感をうたう傾向は、産む性である女性の詩に多く見られるが、このひとの感覚はさらにスケールが大きく、〈私は空の奥から雷が鳴るのを/自分の心臓の鼓動とも知らずに聞きながら〉と書く。宇宙全体に自分の血がめぐるのを体感している。また、〈いつどこを私が歩いていようとも/未来の私の記憶の中を駆け巡っているだけだ〉とも書く。何十年後かの未来に視座を据えて、そこから現在の自分を見ているのである。途轍も無く大きな時空の中で自分を据えていることに、驚かされる。細事にこだわらぬ粗削りな詩行もあることは事実だが、それより何より、宇宙とのこの一体感は、従来の詩に現れなかったもので、そこに注目した。」

林さんの詩は一度だけ読ませていただきましたが、それまで林さんという方を知らなかったのに、読んだあとのずっしりとした読後感は忘れることができません。林さんの受賞は『詩と思想12月号』で発表される少し前に某研究会で伺いましたが、驚くよりも、やっぱりねという思いをもちました。

林さん、新人賞受賞、おめでとう。これからもあなたの作品、期待していますよ。


林 木林(はやし きりん)(うにまる)

山口県生まれ。
中学1年生の時にクラスメイトから詩の回覧ノートを数人で回さないかと誘われたことがきっかけで詩を書くようになり、以後病み付きに。回覧ノートが自然消滅したのちも一人でこっそり書き続ける。のちに雑誌に投稿、コンクールなどに応募。95年詩とメルヘン特別賞、06年第3回叙情文芸最優秀賞などを受賞。04年第4回詩のボクシング全国大会優勝、05年防府市市民栄光賞受賞。05年春からFMわっしょいの番組内の短詩型コーナー「ことばのあそビバ」に毎週レギュラーゲストとして出演中。06年秋、詩の絵本『ゆうひのおうち』が、すずき出版「こどものくに」から刊行される。( 『詩と思想12月号』 より)
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by hannah5 | 2006-12-12 21:22 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(4)

Commented at 2006-12-12 21:35
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by hannah5 at 2006-12-14 00:26
♪鍵さん、こんばんは。
ご指摘、ありがとう。
いい感性をもってますよね。
Commented by gauche3 at 2006-12-30 19:22
はんなさん。
こんばんは^^
美しい詩ですね・・
読んでいて鳥肌が立ちました。

最近、詩集を全然読まないので、買ってみよっかな。
Commented by hannah5 at 2006-12-30 22:55
♪猿夫さん、すごい詩でしょう。
今、若くてすごい詩人が続々と出てきてます。
このうにまるさんもそう。
他にもたくさん出てきてますから、おいおいご紹介していきますね。

詩集、ぜひ^^

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