オリオン座   


「おでかけですか」
「はい、よろしくお願いします」

夕方のヘルパーとすれ違った
最後に来てくれるいつもの人だ

世の中には偉い仕事があるものだ
お尻を向こうに押したりこっちに返したりしながら
おしっこで重くなったおむつをはがし
股間を熱いタオルで丹念に拭いてくれる

おしっこの匂いが体温とともに立ち上る

時々、ごっそりとうんこが出る
トイレットペーパーを山ほど千切って
もこもこと出てくるうんこが
全部出終わるまで待つ

それだけのために来てくれる

母は本当は何もかも承知しているのかもしれない
他人が入れ替わり立ち代わりやって来ては
自分の股間を覗いて行くことを

いつかぽつりと言ったことがある
「お元気ですか」
とヘルパーに尋ねられた時だった
「痛いです、心が痛い」
と答えたことがあった
心が痛いと言ったのは
後にも先にもそれきりだった


見上げると
暗くなり始めた空に
オリオン座が出ていた
他の星が見えない時でも
オリオン座だけははっきりと見える

オリオン座を目でなぞった

―― あそこが上半身で、あそこが下半身
―― 腕はあれで、あれがお腹で


ふいに
どこからともなく
針のような悲しみが降ってきた

何千本もの針が
静かな土砂降りになって落ちてきた
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by hannah5 | 2007-02-15 23:34 | 投稿・同人誌など

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