私の好きな詩・言葉(101) 「花売り」 (三角 みづ紀)   


不思議な夢が
わたしを食べる
朝、
目覚める確立は極めて低く
幸運なときは
わたしは朝食を
いただいてから
花を売りに
町へ行く
けいとうの花はいりませんか
ききょうの花はいりませんか
椿だって
きれいに咲いているのよ

親切な老夫婦が
わたしに憐れみの眼を
向ける
それこそ生きている証だった
そうでもなきゃ
わたしは犬小屋にでも住むわ

けいとうを買っていくひとは
残酷
ききょうを買っていくひとは
無神経
椿は
死刑台で
首を落とされた

わたしは誇らしいのよ
花売りとして
それはもう誇らしく
ただ、
君にだけはこの姿
みられたくなかった
だって
君は花売りの誇らしさを
知らないから

椿がね、
こう云ったの
なんで私だけ首を落とされなければ
ならないのかと
云ったのよ
無色の椿がわたしを食べる
一気に飲みこむのではなく
じわりじわり
啄ばむのだ
痛みはない
わたしはくずれながら
誇らしく思った

三日後に眼が覚めて
朝、
朝食をいただき
しおれた花たちを撫でた
わたし
どこまでゆくのだろう
そう思うと
すぐそこに「死」が
佇んでいた

君にだけは
知られたくなくて
そう思うことから
すべては終わりはじめた
とっくに
終わりがはじまって
いたのだ

花はいりませんか
わたしが産み落とした
花たちはいりませんか

振り返るひとは居なかった
それこそ
たったひとつの幸運だった
君にだけはみられたくなかった
枯れた花に手をやると
砂のようにこぼれた

わたしは花売り
誇らしく町角に立つ
素通りするひとびと
なんて誇らしい
そうでもなきゃ
犬小屋に住んだっていいのよ


(三角みづ紀 「花売り」 現代詩手帖3月号に掲載)


三角みづ紀さんの「花売り」を読んでいたら、できたのが↓「花売る人に」




他1篇


「しゃくやくの花」


安物のベッドが
壊れてしまいそうな
セックスの夜
むかしのこいびとのもんだい
を吐き出したおとこは
わたしに
プロポーズした

わたしは
とても拙いから
ことばは返せずに
おとこを
抱きしめて
きすをした

わたしは
とても拙いけど
これから
を強く感じたから
煙草を吸うこと

やめました

朝と云う概念がめばえたら
駅ビルの花屋

一本三百五十円の
しゃくやくを二本
買います
おとこが帰ってから
それは
固いつぼみを緩め
夜中には
咲きこぼれます
とても死ぬ きれいね
とても死ぬ きれいね

わたしたちは
とても拙いから
時々わからなくなるけど
拙いなりに
生きること
を選んだのだ

次に桜が唄う頃
わたしは
よめになるのだ

しゃくやくの花
とても死ぬ きれいね


(三角みず紀詩集 『カナシヤル』 より)


ひと言


長い間、詩は古の詩人たちの詩ばかりで、「今」を生きている人たち、特に若い人たちの言葉はどこに行ってしまったのだろうと思っていた。今使っている自分の言葉があるのに、それを少し歪めて一時代前の言葉に嵌め込むのは詩のいのちを殺すものだとも思っていた。私の中で溢れてくる「今」の言葉はまさしく、今の時代を反映させているものであり、それは昔の人たちから見れば眉をしかめるようなものなのかもしれない。長い間、文学は廃れる一方だということを聞いていた。しかし、最近の詩界は元気がいい。殊に若い詩人たちが大きな賞を取ったり、詩の教室などでも若い詩人が教えることが出てくるようになった。

三角みづ紀さん、偶然にも彼女のブログを見つけて、私は足しげく通って見ているのだけれど、とっても普通の女の子だという気がする。(お会いしたことがないので、実物は少し違うかもしれないけれど。。。)詩を書くために血を吐くような経験をし、今、ようやく見つけた幸せの中にいる。

人生にはいろいろな事がある。時には泥沼を這い回らなければならないような事も経験するだろう。でも、最終的には幸せな方向へ向かっていってほしいと思う。それが私たち人間に与えられた神さまの願いなのだから。

みづ紀さんの「花売り」を読んでいたら、「花売る人に」という詩ができた。あと、『カナシヤル』 から「しゃくやく」をご本人に無断でお借りした。みづ紀さん、事後承諾ですみませんが、この詩、好きですよ。


三角みづ紀(みすみ みづき)

1981年 鹿児島県生まれ。
2004年 現代詩手帖賞受賞。
2005年 詩集 『オウバアキル』 にて中原中也賞受賞。
三角みづ紀さんのブログ: ニンゲンイジョウ
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by hannah5 | 2007-03-20 20:33 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(6)

Commented by 三角みづ紀 at 2007-03-20 20:58 x
とりあげてくださりありがとうございます☆とてもうれしいです。
Commented by ksksk312 at 2007-03-20 23:11
三角みづ紀さん、好きな詩人です。
hannah5さんの「花売る人に」...いい作品ですね。
じっくり読みました。
Commented by hannah5 at 2007-03-22 00:03
☆みづ紀さん、オウバアキルからコメントくださってありがとう。
時々、覗いていますよ。
まあね、みず紀さんも人生いろいろあるでしょうけど、心がおいしく感じるような生き方しましょう。
体、お大事にね。
Commented by hannah5 at 2007-03-22 00:05
☆志久さま、こちらではおひさしぶりですね。
みづ紀さん、心を書きますからね、それで好きな人も多いのでしょう。
「花売る人に」を読んでくださって、ありがとう。
割合、ストレートに書けました。
Commented by 文月悠光 at 2007-04-27 22:43 x
大好き^^
Commented by hannah5 at 2007-04-27 23:21
☆悠光ちゃん、ですね^^

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