MY DEAR でまた秀作をいただきました。   


自分だけで詩を書いていると、人はどんなふうに私の詩を見てくださるのかわからないのですが、見ていただいて評や感想をいただくと、ああ、そうか、人にはそんなふうに映っていたんだなとか、逆に思い入れたっぷりに書いたのに相手に伝わっていないんだなどと思わされます。島さん、三浦さん、伊藤さん、いつもいつもありがとうございます。(MY DEAR

今回は2作に秀作を、1作に秀作1歩手前をいただきました。


1. 「波の間」
       (2007年2月7日投稿)


「元気にしてる?」
「うん、まあまあね」

あなたのまあまあねは
明るくなったりグレーになったり
振幅があるから
今日はどのあたりなんだろうかと考える
寂しいような情けないような顔が
ふと浮かんできて
今日のまあまあねは
濃いグレーかもしれない

十日ほど前、朝早く
ひりひりして目が覚めた
底の方に
唐辛子のあなたが沈んでいた

あの日の出発は
なんだか心細そうだったし
引きつったままの気持ちをさすりさすり
誰かに甘えることもなく出て行った

気にしてみても始まらない
何より、決めたのはあなた自身だから
そっとしてあるのだけれど

小舟よりもっと危うい
木の葉のような細々としたあなたの後ろ姿が
大海の波間に漂って揺れている

「平気だよ本当に」
「それならいいけど・・・」

波の間に
唐辛子がぽつんと浮かんだ
心配性だからねぇって
笑ったみぞおちのあたりが
まだゆらゆらしている


島さん評

はんなさん「波の間」
登場人物が、どうもクチべたな様子なので、私は母に対する息子イメージで読ませてもらいました。本当のところはどうか知らないけれど、たぶん凡その人はそう読むでしょう。
思考が粘り強く続くようになりましたね。軸が1本しっかりあって、ブレなくなりました。表現方法はいろいろ試されるようだけど、本質的な進歩はそこにあると思う。
情感も比喩も、その思考の軸にうまくミキシングしていきます。この詩あたりが、やっぱりはんなさんの基本スタイルだと思う。秀作を。
「まあまあ」の振幅の話。大阪弁の「ぼちぼちでんなー」とタブりながら、苦笑しながら読みました。第2連は、序盤の「掴み」としては、最高ですね。
第4連の「気持ちをさすりさすり」、第3連登場の「唐辛子のあなた」という表現。また唐辛子がのちに木の葉と入れ替わるところもおもしろいです。
「みぞおちのあたりをゆらゆら」も、あまり硬質にならず、抒情詩に合う距離感を、よく掴んだ比喩だと思います。
成人した子供と、それを遠巻きに心配する親の、直接会話は少ないながら充分な心のやりとりのある一場面で、感情的な1作です。文句ないですよ。これも残しておいて欲しい作品です。



2.  「カレー屋」
         (2007年3月20日投稿)


何年前のだかわからないナツメロがかかっているカレー屋で
腹をすかせた男たちの中に坐る

女のいない男たちの空間は
カレーとスパゲティの大盛りを
ひたすら体の空洞に流し込む
大盛りのサラダにどぼどぼかけたドレッシングが
湖のように千切りの野菜を浸す

色気抜きの男たちの目のいろは
会話というより体の中から発する音に近く
たまに交わす相槌が途切れてつながっている

男たちは女の子といるとこういう店より
小奇麗でよそよそしいスパゲティの店に行くのだろう
神妙な顔でスパゲティをフォークにくるくる
だがそんな所では男の顔には会えやしない

ここでは男たちは目を輝かせて
ひたすら点のような会話を食べている

ものすごい勢いで食べていた隣の男が出て行った
体の中から立ち上っていた熱も
男とともに出て行った
坐っているだけで体の厚みが
部屋の温度を上げてしまうような男だったけれど

男たちが二人また入ってきて坐った
二人一斉に横を向いて壁のメニューを見つめている
注文を終えると二人揃って前を向き
のっぺらぼうに広がっている空間を覗き込んだ

くぐもった声が最低必要限のふた言み言
一人がおもむろに煙草に火を点けた

ふと、何の脈絡もなく
あの人の顔が厨房の向こうに立った
それはごく自然でさりげなく
あの人の空気そのものだった


島さん評

はんなさん「カレー屋」
大衆的な食堂の雰囲気がよく書けていて、いい詩です。実に雰囲気がある。ちゃんと仕上げれば、あなたの代表作の1つになってくれる詩ですから、ぜひ、ちゃんと仕上げてあげて下さい。
秀作にあと一歩。

第3連1行目「目のいろ」。たぶん、ひらがなにした方が強調になると思い込んでるフシがありますが、それは違います。ここは「目の色」と漢字にしないと、逆に弱まってしまってます。
第3連3行目、「途切れてつながっている」は、気持ちはわかるがあんまりです。ここまで書くと日本語になってないと思う。「途切れながらつながっている」くらいで。
第4連4行目、「そんな所では」は、強調の意で言葉を崩しましょう。「そんな所じゃ」でいいと思う。
第6連2行目、ここだけことさらルビというほどの部分ではないので、「立ちのぼっていた」と表記して、ルビなしにしましょう。
第6連5行目、「空気の温度」→「部屋の温度」または「室内の温度」。
第8連1行目、「最低必要限」→「必要最低限」。

言うと、1~8連までが導入で、終連がヤマなんです。終連をどんでん返しと間違えている。ここはヤマ場だから、バランスから言ってもとうてい4行では表現しきれません。もっとしっかり書いてほしい部分。顔が現れただけでは、実在とも、夢ともわからない。ここにはいない過去の男の幻影を見たのだろうと読者に誤解されても仕方のない書き方。そうではなくて、この男に会うために、作者はここに来たはず。男の働く様子、実在感が出るくらいにはここは書かないといけない。それからラストの2行に入ってほしい。
冒頭に書いたとおり、すごくいい詩になれる詩だから、しっかり仕上げてあげて下さい。



3.  「レールの終着点」
            (2007年4月5日投稿)


ひと山のズボンが改札口から絞り出される

ぐわり
ぐわり

黒々とズボンが歩く
バス停に並び始める
列が出来る
列からこぼれたズボンが
スーパーの向こうの暗がりに吸い込まれる

ひと山のブーツが改札口から絞り出される

くわり
くわり

細々とブーツが現れる
バス停の列に加えられる
列が出来る
列から漏れたブーツが
スーパーの向こうの暗がりに吸い込まれる

タッ タッ タッ タッ タッ

無言の靴音が舗道を鳴らす
ズボンが次々と歩く
ブーツが細々と歩く

タッ タッ タッ タッ タッ

働くために存在する足
歩くために存在する労働

バス停の列が膨れる
暗がりが吸い込む

寡黙なレールから降りる

今日という終着点


島さん評

はんなさん「レールの終着点」
ちょっと荒っぽいのですが、荒っぽいなりにトーンはあっているので、読む分にはさしつかなく読めてます。
下から30cm~50cmくらいに所に視線があるみたい。子供の視線よりまだ低い。もうこの視線だけで、がっちり印象に残る詩です。特に、第1連は鮮烈。その意味で秀作あげていいと思う。
「スーパーの向こうの暗がり」という、謎を1つ用意(スーパーではなく、スーパーの向こう側。何があるのか、いろいろ想像をかきたてられる)してくれていて、良いスパイスです。答えの見つからない楽しさがある。単調なこの詩にとって、必須のスパイスです。
この詩、擬音のところをおもしろく発音できれば、意外と朗読で映える詩ですよ。






終連を少し直しました。


「カレー屋」


何年前のだかわからないナツメロがかかっているカレー屋で
腹をすかせた男たちの中に坐る

女のいない男たちの空間は
カレーとスパゲティの大盛りを
ひたすら体の空洞に流し込む
大盛りのサラダにどぼどぼかけたドレッシングが
湖のように千切りの野菜を浸す

色気抜きの男たちの目の色は
会話というより体の中から発する音に近く
たまに交わす相槌が途切れながらつながっている

男たちは女の子といるとこういう店より
小奇麗でよそよそしいスパゲティの店に行くのだろう
神妙な顔でスパゲティをフォークにくるくる
だがそんな所では男の顔には会えやしない

ここでは男たちは目を輝かせて
ひたすら点のような会話を食べている

ものすごい勢いで食べていた隣の男が出て行った
体の中から立ちのぼっていた熱も
男とともに出て行った
坐っているだけで体の厚みが
部屋の温度を上げてしまうような男だったけれど

男たちが二人また入ってきて坐った
二人一斉に横を向いて壁のメニューを見つめている
注文を終えると二人揃って前を向き
のっぺらぼうに広がっている空間を覗き込んだ

くぐもった声が必要最低限のふた言み言
一人がおもむろに煙草に火を点けた

厨房にいた男が客の一人に話しかけた
無表情だった男が微かに笑っている

「今度、行ってみようと思ってるんですけどね」
客は黙ってうなずく
「招ばれたもんで・・・」

無言の相槌が
旧知の友人のように溶け出している

ふと、あの人の姿が厨房の中に浮かんだ
孤独な面影のあの人が
男たちに囲まれて働いている

それはごく自然でさりげなく
あの人の空気そのものだった
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by hannah5 | 2007-05-17 23:45 | 投稿・同人誌など | Comments(12)

Commented by 104hito at 2007-05-18 07:17
ふたたびの受賞おめでっちょ~('0')♪☆*☆

こつこつと絶やさず続けることって素晴らしいでつ~♡
Commented by ポピーの詩 at 2007-05-18 14:08 x
はんなさん、おひさしぶりです!
はんなさんが時折紹介されている様々な詩人や詩集から、今まであまり知らなかった詩の世界が少しずつ広がってきました。
いろいろな詩人の詩を読んで、自分の世界も広げていこうと思います。
ありがとうございます。
Commented by hannah5 at 2007-05-19 02:31
☆ヒトさん、ありがとうございます。
ヒトさんにそう言っていただけると、なんか妙に嬉しいです^^
Commented by hannah5 at 2007-05-19 02:32
☆ボビーの詩さん、こんばんは。
おひさしぶりですね^^
ボビーの詩さんの詩作のご参考にしていただけていること、嬉しく思います。
これからもよろしくお願いします。
Commented by aki at 2007-05-20 07:21 x
 はんなさんの詩は一度読むと忘れられないですね。「カレー屋」は意味深な最終章。どうとも取れることがまた良いようにも思えましたが、講評はやはりするどいご指摘でもありますね。とにかくカレー屋でカレーが食べたくなりますっ。(でも男ばかりのカレー屋、、結構入るの勇気がいるんですよね。吉野屋とかも*^^* 女と男の隔たりを感じる意外な場所がこんな場だったりします。)
Commented by hannah5 at 2007-05-20 19:51
◆aki さん、ありがとうございます。
先生(島さんたち)に見ていただくと自分の詩のいたらなさがわかって、とても勉強になります。
このカレー屋は男性ばかりが入る所とは知らずに入ったんですよ。で、最初は2、3人しかいなかったのが、次第に増えて、気がついたら男性ばかりの中に女の私が一人でいました。見るともなしに見ているとこれがすごい!(笑)男性って女性と一緒にいる時と男友達だけでいる時と明らかに違うんですね。で、これは面白い題材だと思って、その場でスケッチするように見えることを書き留めました。かなり刺激的な体験でしたよ。
Commented by greenmoon9 at 2007-05-22 16:31
ますます進化していきますね。
すごいです。^^
これからも素敵な詩を書いてくださいね。
ちなみに小学校の頃は、毎週土曜日はカレーでした。
家に帰るとカレーの匂いがしてたのを思い出しました。
Commented by akisuke-jp at 2007-05-22 21:37
詩のことはまったくわかりませんが、はんなさんの詩は明らかにすごいと思うんです。
そして、評価を読むとますますすごい詩なんだなーと実感します。
ほんとにはんなさんはすごいところで頑張っているんですね。
受賞おめでとうございます。
Commented by hannah5 at 2007-05-23 11:43
◆greenmoon さん、ありがとうございます。
カレーはgreenmoon さんにとっておふくろの味ですね^^
Commented by hannah5 at 2007-05-23 11:45
◆akisuke さん、ありがとうございます。
いえ、まだまだです。
多くのすばらしい詩人さんたちの足元にも及びません。
でも、がんばれるだけがんばります。(←すごく日本人的だなぁ・・・^^;)
Commented by gauche3 at 2007-05-26 16:05
はんなさん。
こんにちは^^
「カレー屋」、素敵な詩ですね。
評を読みながら、終連の違う最後の詩を読むと、やはりまた違った印象を受けます。
僕は、幻想として浮かび上がった過去の男、っていうのも好きなんですが(^^ゞ
Commented by hannah5 at 2007-05-26 22:50
◆猿夫さん、おひさしぶりです^^
ありがとうございます。
そうですね、そういうこともありますからね。

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