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誰も知らない可笑しみを笑う   


脳がはじけて可笑しいときには
へそがぐふっぐふっと振動する

最近もそんな出来事に出くわした
一つの場所から次の場所へ行くまでの小休止に
ある場所に
―― それは私しか知らない空間だったが
深々と身を沈め
ようやく息をついた時だった
私はその場所がひどく気に入って
あらゆる自分を放り出してそこに坐っていた
目の前には
小さなカップに注がれたいくぶん甘めのアップルティが置かれていた
私は湯気に立ち上っていくアップルの香りをぼんやりと見つめていた
携帯が何度か点滅し
何通かのメールが受信されるころ
アップルの香りとともに立ち上っていた意識が
ふと、湯気の中に掻き消えて
彷徨と徘徊を繰り返し始めた

私はいつのまにかよく知っているはずの
―― けれど、その時はまるで初めて見るような
街に立っていた
私の足がふわりと歩いた
やがて、私が気づかないうちに
足はものすごいスピードで街の中を疾走し始め
まるで車窓から眺めているみたいに
街の景色が、びゅんびゅん、と飛んで行った

時々、ひとつの街の中を徘徊し、
所々に立っている標識やら記念碑やらのところで立ち止まり
歴史の一点であることを確認し
景観の一点であることを認識し
地上の一点であることを感嘆し
やがて、また、びゅんびゅん、と飛んで行った

次へ次へと疾走し
いたって真面目に追求した
(「真面目」とは微細に踏み込み、「真=真に、まっすぐに、直線に、ぶれることなく」であり、「面=つらがまえ、おもて、体裁よく」であり、「目=覗く、見る、窓、情報の出入り口」であるからして、几帳面におごそかに、ひたすらじっと見据え、ひたすら観察し、ひたすら理解し、ひたすら蓄積することである。)

それは意識から無意識へ
あるいは無意識から意識へ切り替わる瞬間の
しごく無防備な姿の発見だった
無防備であることに真面目であればあるほど
滑稽という文字の可笑しさがつのった
ごく主観的な出来事の始まりは
内側に留まることを止め
裸になって外側を歩くことらしい

私はその場所に
誰にも気づかれないようにはじけた脳をそっと隠した
夜毎、その場所を訪れるたびに
一人こっそりとはじけた脳を取り出すことにしている






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この作品は 『詩学』 の4月に投稿した作品ですが、7/8月号で一次選考通過しました。
やっと、浮上してきました(笑)
少し息がつけました。
またトライしてみます。

by hannah5 | 2007-07-27 12:46 | 投稿・同人誌など

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