私の好きな詩・言葉(116) 「とりこ」 (寺西 幹仁)   


小学生のころ
毎週日曜日野球をした

広場に集まったこどもが奇数のとき
一番使えないこどもを残しグッパーでチーム分けをする
チームが分かれると代表が出てじゃんけんをする
負けたほうが残ったこどもをチームに引き取る
一番使えないこどもをとりこと言った

私はとりこだった

その日も私はチームの代表にはさまれ
じゃんけんのまんなかに立っていた
だれかが あれ という顔をした
振り向くと祖父が立っていた
そのとき祖父がどんな顔をしていたか憶えていない
恥ずかしさと情けなさで脳みそがいっぱいになった
私がとりこであると家族には知られたくなかった

私は家に帰れなかった
丈の高い草の茂った河原があって
私はそこに身をひそめた
夜になると湿り気が尻を冷やす

今も私はその河原にかくれている
明日こそ迎えに行かなくては
そう考えている


( 『副題 太陽の花』 より)




他2篇

「さみしかったんだ」

ベランダの手すりにもたれて
何かぼくの部屋をのぞきこんでる
あれここは二階だよ
ってこれはありふれたお話で
ここまで書いて
顔を上げると
ベランダの手すりにもたれて
何かぼくの部屋をのぞきこんでる

書いてることが
本当になるってことも
こんなふうにしてあるんだって
思って
こんばんは
こんばんは
良いお天気ですね
良いお天気ですね
何かご用ですか
いえ何も
入りますか
いえ結構
どうしました
いえ特に
あくる日
拝み屋の勝田さんに聞いたら
さみしかったんだろ
そのまま帰ったの
って言うので
うん 帰ったみたいです
あまり かまっちゃだめだよ

それで
えさとかは
やれないけど
また
来るかな




「三月十六日のこと」
      副題 太陽の花

着るものがなくなって
コインランドリーに行った
空堀商店街を西に下って
松屋町筋の二筋手前を右に折れた所にある

コインランドリーに行く途中
山辺医院があって
その前で
花を売っている人がいる
三月十六日午前十時
その人はいなくて
ダンボール箱が置いてあった
箱には大きな字で
太陽の花
と書いてある
その下に小さな字で
小菊
と書いてある
箱の横に
沖縄県花井園芸農業共同組合
と書いてある

どうして太陽の花なのか
沖縄だから太陽の花なのか
それとも小菊の別名がそうなのか
わからないままぼくは
洗濯物の詰まったバッグを持ち直し
頭の中で
太陽の花太陽の花と
呪文のように唱えていた
太陽の花というタイトルで
何か書きたいとも考えた

昨日お好み焼き屋で焼酎のお湯割りを四杯飲んだ
そのあと別の店でウイスキーの水割りを五杯飲んだ
おととい電話でTさんに
一人で三時まで飲むのは良くないと言われた
Tさんのおとうさんは七年前酒で死んだ
そんなことも聞いた
それで
酒を飲むこと自体が良くないと言っているのか
一人で三時までというのが良くないのか
それとも両方良くないのか
そんなことを考えながら
昨日も一人で三時まで飲んでいた

商店街の果物屋の先を右に曲がると
コインランドリーだ
果物屋の店先で三歳くらいの女の子が
店番をしているおかあさんの指を
いじって遊んでいる
おかあさんをさわるのがうれしい
そんな顔だ

ぼくはコインランドリーでこれを書いている
タイトルの太陽の花にしたかったが だめだ



ひと言

たぶん、それほど長くたくさん寺西さんを知らなくても、寺西さんの詩を読むと寺西さんがわかるような気がする。実際にお会いしたのはたった2回だったけれど、寺西さんはこの詩そのものだったと思う。できたらもう少し長く生きていらっしゃったら、もっといろいろな詩が読めただろうにと思う。それにしても、47歳とは、若すぎましたね。

寺西さんのHP 泣きじゃくり部屋
詩学社と寺西さんのこと 「きのふはけふのものがたり」

寺西さんがね
そんな生き方
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by hannah5 | 2007-12-09 21:20 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(6)

Commented by マユ at 2007-12-11 07:04 x
こんにちは^^ 読んでいるうちに何か・・似たような記憶が甦ってきて胸の中が熱くなってしまいました。草むらの中でうずくまっているこの子の身体を・・心を抱きしめてあげたくて・・コメントを書きながらも熱いものがこぼれてしまいます。 
Commented by hannah5 at 2007-12-11 17:56
♯マユさん、こんにちは^^
はじめまして。
そうですね、同じような経験をもつ人はいるかもしれませんね。
寺西さんはもしかすると、最後まで草むらにいる子を迎えに行けなかったのかもしれません。
でも、そこが寺西さんのよさだったのかなと。
今になって思います。
Commented by moonpower0723 at 2007-12-11 21:30
はんなさん、ご無沙汰しております。

寺西さんの作品、初めて読みました。
実際にお会いしたことはないですが、
何通かお手紙をいただき
こうして今作品を拝見させていただいて
もっともっとたくさんお話しがしたかったと思いました。
Commented by Adam at 2007-12-12 00:24 x
こんばんは、はんなさん。

私の場合、幸い運動神経が人並みにあったので、「とりこ」のようになったことはありませんが、それこそ全能な人などまずいないでしょうから、だれでも分野が違えば、「とりこ」になる可能性はあるでしょう。でも、私は存じ上げませんが、寺西さんは、きっと詩の分野では「とりこ」になることなく、自分の能力を発揮しえたのではないでしょうか、また、そうであったことを願います。
Commented by hannah5 at 2007-12-12 10:55
♯悠光ちゃん、こんにちは。
寺西さんにお会いした時、悠光ちゃんの話も出ましたよ^^

寺西さんの詩集はたぶんもうどこにも残ってないと思います。
ポエトリージャパンで注文したのが最近のことですが、あと3冊しかないと言われました。
あとはいつまで残っているかわからないですが、寺西さんのHPに寺西さんの全作品が載ってます。
Commented by hannah5 at 2007-12-12 11:00
♯Adamさん、こんにちは。
そうですね。そのように私も願います。

私の書き方がよくなくて、少し誤解を受けるかなと後で思ったのですが、「この詩そのもの」というのは寺西さんが今もとりこのままということではなくて、ほのぼのとした印象があったということです。
もし、誤解されていたら、すみません、私の書き方がまずかったです。

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