私の好きな詩・言葉(117) 「花のかけら」 (新井 豊美)   


その道のうえで
わたしは何かを捨て 行きながらそれを捨て
ちぎっては捨て さらに捨て それが何であったのか
冬の木々にならい わたしは葉を落とし
棒のようなものとなり
直立するわたしの頭上を風が渡り わたしは
捨てたことさえ忘れ 忘れることによって何かを与えられ


とはいえそれは 風の形見ようなもの
抜けたオナガの青い尾羽のようなもの
割れた器のかけらほどにも役立たないもの
その曲線がかつて内側に保っていたものを想像させるとしても
切っさきは宥められていまは
意味をなさないひとつの破片 その表に
ひたすら咲きつづける それらはすべて夢の切れはし
繋ぎとめられない願い


というよりも時の残闕と呼ぶべきもので
血を流すことはなく すきとおる空虚の形をもち
ここからわたしはふたたび何かを与えられ
そのたびにわたしはすこしずつ軽く


鳥たちが群れているクヌギの梢ではいましも
一羽がさえずり 一羽は翼をひろげ 一羽は目を閉じて
瞼の裏に描かれた藍色の
花のかけらをふしぎなもののように覗き込んで


(新井豊美詩集 『草花丘陵』 より)





ひと言

『草花丘陵』は第48回晩翠賞を受賞した詩集。現代詩手帖11月号で紹介されていたこの詩を読んで、その美しい言葉に矢も楯もたまらず詩集を買い求めた。それからしばらく詩集を持ち歩いて、機会あるごとに読んでいる。

私の詩がどこへ向っているのか。思考錯誤を繰り返し、彷徨し、出口が見えない状態が続いているが(たぶん、それは、私の詩を読んでくださっている皆さんがよくご存知だろうと思うけれど)、『草花丘陵』 を読んで、抒情はやはり私の詩の中に残しておきたい部分、残しておくべき部分であると思った。詩はこんなふうに書きたかった - 『草花丘陵』 は私の中に今在る思いと言葉を手繰り寄せていけばいいのだと教えてくれていると思う。

「好きな詩」として紹介することをしばらくためらっていた。今年は去年よりずっと多くのすばらしい詩や詩集に出会ってきたが、その中でも新井豊美さんの言葉と 『草花丘陵』 は私の大切な宝になった。



新井 豊美 (あらい とよみ)

1935年広島県尾道市生まれ。銅板画製作から詩に転じる。1970年頃から詩と評論を発表し、本格的に詩を書き始めた。詩集 『波動』 (1978)、『河口まで』 (1982、地球賞)、『いすろまにあ』 (1984)、『夜のくだもの』 (1992、高見順賞)、『現代詩文庫・新井豊美詩集』 (1994)、『切断と接続』 (2001)、評論 『苦界浄土の世界』 (1986)、『〔女性詩〕事情』 (1994)、『詩の森文庫・女性詩再考』 (2007)、詩文集 『シチリア幻想行』 (2006)、他著書多数。 (「現代詩手帖」11月号より)
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by hannah5 | 2007-12-21 23:52 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)

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