私の好きな詩・言葉(128) 「ひとつひとり」 (石畑 由紀子)   


ひとつひとり


十六歳だった
終わったあと
ひとつになったんだね、と囁かれ
雑誌の読みすぎだとおもった
このベッドの下に隠れてるなにかかしら、とか
制服がしわしわになっちゃった、とか
私ははじめてで
彼とは付きあっていたけれど
そんなことをぼんやり考えることもできるような
状態でもあったわけで


ひとつになったんだね
この言葉を最初に考えたひとは
なんにも知らないひとだ

想うより想われたほうがしあわせよ、とあの日
私を祝ったひとも
なんにも知らないひとだ

それとも
重ねすぎて
目をふせる
ほかなかったのか



    *


国際中継で
片足ずつ分けあって
ベトちゃんとドクちゃんが引き離されたとき
私は涙があふれた

ひとりだね
これからはひとり同士だね


恋をするたびに
私は彼じゃなくて
どうしても
誰も私になれなくて
くもった窓の内と、外
ふりつもる痛みを
あの日ドクちゃんは片足で飛び越えた
自分の一部 じゃなくなった
ベトちゃんの手をとって



    *


私たちが皮膚ごしに灯をともしていたころ
ベトちゃんは静かに灰になった
ドクちゃんは大声でさびしい、さびしいと号泣したそうだ
本当に
ひとりになってしまったね
送りだした足は
もう片方の記憶は
どんなふうに残っていますか



    *


ひとつになったんだね

卒業前に別れたあと
その彼はトーキョーへ行ってしまい
しばらく同窓会もないので
もう十年以上会っていない
最後に会ったときはたしか互いに笑ったはずだ
こどもだったよね、でも
こどもなりに、だったよね、と

そんな昔ばなし

私たちが
出会うずっとまえの



    *


こどもなりに、だった私は
おとなと呼ばれる歳になって今
それでもなお
重ねても目をふせることはできずにいる

それでも私たちが互いの
その片足であったならどうだったろう
窓を越え、なにもかもに
気づいて

さびしいときは
大声で泣ける

そんなことを浮かべては
ちいさく笑う


もしもはない
もしもは
ない



私たちは
ひとりだ
かなしいほど

遠ざかる
そのいのちが
かなしいほど
愛しくて
おかしい


                 (「狼」16号(光富いくや編集発行)所収)







ひと言

なぜだか、十代の頃の痛みを、それからはるかな年月が経ち、もう風化してもいいはずなのにいまだに心が覚えていて、そういう詩に出会うと痛みの中に即座に移入してしまう。それは郷愁でもなければ思い出でもない。今の自分を作ったものはその頃の痛みであることが多い。逆にいえば、その頃の痛みがなければ今の自分は存在しなかったと言える。

「狼」16号の作品の中で、石畑由紀子さんの「ひとつひとり」に何度も立ち止まった。おとなになった「私」が16歳の時の痛みを思っている。本当は抱えきれないほど大きいことなのに、16歳の「私」は

    このベッドの下に隠れてるなにかかしら、とか
    制服がしわしわになっちゃった、とか

考えられるほど妙に冷めていて、けれど、それは平常心というのとは違う。

おとなになって泣きたい日がある。けれど泣かない。乗り越えたのではない。泣いてもどうにもならないから泣かないだけだ。その代わり、地表に噴出しないマグマみたいに、地下でぐわぐわ涙が出る。乾いた目で泣く涙ほど痛いものはない。

詩を書くようになっていいなと思うことのひとつに、痛みの共有体験がある。痛いですよと声高に言わなくてもちゃんと痛みを経験している人がいる。そして、それを詩に書いている人がいる。詩に共感しながら、自分の痛みが和らいでいくのを感じる。




石畑 由紀子(いしはた ゆきこ)


1971年生まれ、北海道在住
北海道詩人協会会員
詩誌「詩界0」「夕凪」所属、「文学極道」発起人
1996-7年     「月間カドカワ」(角川書店)に詩・短歌掲載
1999年        詩集 『静けさの中の』 (アトリエ出版)
1999、2001年   『松任谷由美選集五七五』 (フジテレビ出版)に俳句掲載
2004年        「詩学」にて書評掲載
2004、2007年   「詩学」に作品寄贈
2005年より     「styfte.」(東京)企画のインスタレーション「pp」、
             詩のカフェ・朗読の販売「p-cafe」に参加
2006年        北海道立近代美術館にて詩の朗読
2008年        アート系フリーマガジン「schole」付属CDに自作詩朗読を含む楽曲
             「月のもの」収録
石畑由紀子さんのHP: 「言葉のアトリエ」
                                     
                                    (「狼」16号よりコピー抜粋)
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by hannah5 | 2008-12-02 12:47 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)

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