2006年 03月 27日 ( 2 )   

言葉を識ること - 吉野弘の詩を読んで   


こんなふうなひっそりとした大人が
私にはない
普通の生活を送り
普通人の意識をもちながら
心に映った繊細を
冷静に書く大人の目が私には欠けている

いつまでたっても未熟な私は
昔からいつも 大人に憧れていた
大人になったら
大人の悲しみを知った詩が
私にも書けると思っていた

彼は気弱なロマンチストではない
むしろ家族とありふれた日常を送る
一人の夫であり
一人の父親である

彼は高邁な理想主義者ではない
平易な言葉で
淡々と事実と現実を見つめて綴る

彼は厭世主義のニヒリストではない
真面目に生きて
仕事をし
垢にまみれた人間関係の中にいながら
尚 心に透明を保っている

今日 ごはんを食べて
今日 満員電車に揺られて
今日 何かがうまくいったり
うまくいかなかったりしている

言葉を識るとはこういうことだ
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by hannah5 | 2006-03-27 09:35 | 作品(2004-2008) | Comments(0)

私の好きな詩・言葉(69) 「早春のバスの中で」(吉野 弘)   


まもなく母になりそうな若いひとが
膝の上で
白い小さな毛糸の靴下を編んでいる
まるで
彼女自身の繭の一部でも作っているように。

彼女にまだ残っている
少し甘やかな「娘」を
思い切りよく
きっぱりと
繭の内部に封じこめなければ
急いで自分を「母」へと完成させることが
できない
とでもいうように 無心に。


(新現代詩文庫 『新選 吉野弘詩集』 より)

解説
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by hannah5 | 2006-03-27 00:07 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(4)