2009年 01月 18日 ( 1 )   

私の好きな詩・言葉(129) 「鳥の言葉は」 (新井 豊美)   


「鳥の言葉は」


飛びたつ鳥を追ってゆく
はいいろの雲のさけめ
そこだけが澄んだ淵のような
いっそう蒼みを帯びてくる少女の怒りの眼のような

   鳥よ おまえの
   ゆくところはどこか

あの街の高い塔の上にも鳥は群れていた
変わらぬうたを愛語のようにかわしながら
微風にも揺れるしなやかなゆうかりの葉群れに抱かれて
彼らはなにをうたっていたのか
なにを思い なにを悲しんだのか
海峡と岬をへだて 山襞は幾重にも険しく迫って
あれははるかな調べだが
生まれるまえに聴いた誰もが知っているうただから
わたしはその意味を思い出せるはずだ

   鳥よ おまえが
   かえってゆくところはどこか

塔は崩れ 木は倒され
ゆくところなく
かえるところなく
とどかぬところ ゆきつけぬところ

   ゆえに非在の場処であるかのような ここ 唯一の場処で
               問うことの無意味によってわたしの問いは 忘れられ

北北西を指す風見の針
沈黙の石は磁気を帯びてかすかに震え
それらの上におおいかぶさってくる 冬の重力

錆びた滑車が
ギリリと 軋み



(「現代詩手帖」(2009年1月号)掲載)

ひと言
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by hannah5 | 2009-01-18 23:42 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)