カテゴリ:作品(2009~)( 50 )   

(深淵の花)   


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深淵の花(ルネ・マグリット)



つまりこういうことだと思うのね

これは私たちが見捨てたもの
私たちが省いたもの
私たちが意識の中に立ち昇らせなかったもの
小さなパッションに魅きつけられてやまないのに
もろもろと崩れてしまうもの
奥ゆかしい緑の谷間で
私たちを見い出してくれるのは
だれ?


(ルネ・マグリット展にて)
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by hannah5 | 2015-08-24 17:03 | 作品(2009~) | Comments(0)

(天才の顔)   


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「天才の顔」
ルネ・マグリット


見ているものが見えず
食べているものが食べられず
はるかかなたの流れの中に
時間がたゆたう
聞き慣れぬ音
閉ざされた闇、または記憶
うっそうと茂る魑魅魍魎の優しさ
混沌のゆかしさ
あらゆるものは留まることを知らず
留められるものがあるとしたら
仮初めの自分の姿

(ルネ・マグリット展)

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by hannah5 | 2015-05-27 17:45 | 作品(2009~)

昼と夜の間で(光の帝国Ⅱ)   


(昼)迷走に。
あらゆるものの息を吸い込んで
労働が疲弊している
思い出という思い出が
時間の裏側へ流れていく
単純な思考を切り裂いて遊ぶ日常の下で
虚偽が明滅しながらまどろんでいる
眠ったまま迎える不安
さらに付け加えられる憂鬱

(夜)覚醒に。
あらゆるものの沈黙に浸って
栄華が快方に向かって進んでいる
永久に来ることのない安らかな夢の在り処を
探し続ける
次々と想起される街の中の散策と
それに伴う苦痛や後悔
目覚めて走り出す安らかな深淵

私たちに覆い被さるのは
よく晴れた午後の中で増殖する狂気?
それとも
束縛から解放されて浮遊する自由?


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「光の帝国Ⅱ」


(ルネ・マグリット展にて)

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by hannah5 | 2015-05-17 00:15 | 作品(2009~)

それぞれ   


ここにある
わたしたちのそれぞれの空間
わたしたちのまわりにぽっかりとあいた空洞
詰めることと埋めることとが泳いでいる空間に
しずかな一滴を垂らして
しいんと座ってみる

座るということは
もっともおごそかな思いの発露
空洞の中心に腰を据え
そよぐもの
流れるもの
漂いうつろうものの
順々に現われては消えまた現われるさまを
手に取り身にまとう

小さな空洞が繭玉のように
ぽっかりと浮かびあがり
いくつも寄り集まり
お互いの距離を等しく保ちながら
繭の中から
息がぷつぷつと気泡になって生まれつづける

目の前で生まれてくる
乳白色の気泡をやりすごす
となりの
となりのとなりの
そのまたひと呼吸おいたとなりの
浮かびつづける空洞の
空洞たちの
わたしの
わたしたちの
似ているようで似ていない
それぞれ

(詩集『あ、』より)

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by hannah5 | 2013-03-18 16:13 | 作品(2009~) | Comments(2)

さくら散る   


いつまでも
いつまでも花が散る
肩の上に
頬に
風に流されていく花びらの記憶の中に

歩いてみる
うす桃いろの花びらが
ぽってりと息苦しく重なり合う下を
どこまでも
どこまでもこれが最後というふうに

降り落ちる花びらを
しずかに
しずかに掬っては風に流し
その先に
小さな刻印を押してみる

小さな隔たりが
無言の言葉を風の中に舞いあげ
川面を見つめていた後ろ姿の向こう側に
落ちていく

途切れ途切れに
話が送り出され
このままずっと ひらひらと
漂い 流れ



(最初に書いた「さくら散る」です。)
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by hannah5 | 2012-05-16 16:24 | 作品(2009~)

流行り歌   


嘘つきが
形に残らないように
影を消す

あったのは
意識の交合
できるだけ遠くに背伸びして立つ
自由意志の祝宴をするために
どこにも残らないことをしてみるのも悪くはないが
たまには泥団子を作って並べてみたかった
妙に楽しくて
お腹がすいて
やがて手のひらのしわが満腹になる

ほしかったのはこれ!
っぽちの泥遊び、誰のものでもなく
生真面目な夢ひとつ
だのに君がほしかったのは
それっぽっちの隠れんぼ
もういいかい?
まあだだよ
三回繰り返すうちにいなくなってしまった

ありそうでなかったもの
もとより
たぶん
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by hannah5 | 2012-01-21 23:50 | 作品(2009~)

アデュー   


それがどんな始まりだったか
取り出すことができないでいる
引き出しの奥の方に押し込んでしまったから
引き出しを引っ張ると一センチほど動き
あとはぷっつりと頑固に動こうとしない
元に戻してまた引いてみる
何かが中で引っかかっているらしく
けれど重苦しい面持ちが
ここで諦めるなどあり得ないとして
また引き出しをこじあけようとする

どんな始まりだったかは
たぶん
それほど重要ではなく
それより前を見つめて
時間の先の方へ思いの丈を投げてみる
もっとも伸びたところで放物線を描いて降りていく

細切れに千切った思い出の色とりどり
しんみりとした切なさに連れていかれそうになるのを
慌てて引き止める
素肌をさらした好意と思いやり
望まれなかったそれらがそれでも懸命に
息を繋いで先へ行こうとする

あの日
頭の中が真っ白になって
何時間も窓辺に立ち尽くした
考えようとしても考えは滑っていくばかりで
西を向いているのか東を向いているのか
北に上がるのか南に下がるのか
時間は正しく進んでいるようで
迷路に踏み込んだまま
ジグザグに前進と後退を繰り返した

何年も固めてきたものが一瞬のうちに液体になり
初めからあったはずのもの
いつまでも残るはずだったものが
ぬくもりだけを残して
いつのまにか姿を消していた

私の中の確かだった息遣いよ
手の中で握りしめることのできた始まりよ
折れた翼は
永遠に眠らせてしまえ
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by hannah5 | 2011-09-18 22:54 | 作品(2009~)

かげろう   


ため息をひとつ
目の前に小さく落としてその先をじっと見つめる
ため息はいくつもの気泡となって
やがて薄くなり始めた表面がくるりくるりと向きを変え
ついにはぽつぽつと穴があいて風通しがよくなる頃
ひっそりと消え入るように溶けていく

風をまたいで歩いていた足が
速度をゆるめ始める
何かを思い出したようにふと立ち止まる
うしろを振り返り
眉間に小さな皺をいくつも寄せ
それから前を向いてふたたび歩き始める
通り過ぎていく風景の中に皺をひとつずつ落としていく
最後の皺を落とすころには
うしろにあったものは霧のように薄くまばらになっていて
やがてそれらもぼんやりと消えていく

始まりをいくら捜しても見つけることができない
二、三日前通った時にはたしかにあったはずなのに
どこかに紛れてしまったか
ぼんやりと消えてしまったか

解決策は霧のようにあいまいなまま
ゆっくりと先へ行く

小さいころからいつも触ってきた街の匂いと音
季節の変わり目ごとに拾い集めた約束のことば
地中深くに突き立てた流れ星
それぞれがかげろうのようにぼんやりと立ち上がり
時間の裏側へ落ちていく

歩いた後から足跡が消える
積み上げた思い出がひとつずつ砕けていく

扉を小さく開いてきれいな色とりどりの石を
わたしの手の中に置いてくれた
わたしは手を握りしめて石の感触を確かめたかった

握りしめた手の中で石が消えていた
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by hannah5 | 2011-01-02 00:23 | 作品(2009~)

ミルクいろした日   


もしも
あなたを失くしてしまったら
いい詩が書けるのかもしれない

       *

落ちていく闇の底に腰かけて
睡魔につぶされないように
白いノートブックを見つめていた

脂と煙の漂う店の片隅で
毎晩同じ安いコーヒーを買った

ころがっていくもの
ねじれて落ちてくるものが
現れては消える

追いかけてつかんでみると
幻のような欠片が
切れ切れにつながっては離れていく

さまよい闇にまぎれ遠くを偲び
睡眠と覚醒のわずかな隙間の
もっとも奥まったところに
苔のようにうすみどりいろした断片が
こびりついているのを
こそげ落としては拾った

       *

あのいびつな夜が
もう現れなくなったことの
不安を抱える

++
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by hannah5 | 2010-09-11 23:32 | 作品(2009~)

再開   


やっと帰ってきたよ
遠い所から

立ち込める霧の中の
私ひとり
このやわらかきもの

自由に泣くことの
自由に笑うことの
遠くて浅い
深くて近い空気の中を歩くことを
謳歌する

不埒な夜の扉をこじ開け
朝が来るまで息をする
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by hannah5 | 2010-09-04 23:41 | 作品(2009~)